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有為転変 ういてんぺん ういてんべん ういてんでん 世の中の全ての現象は絶えず変化して恒常性がなく、常に移り変わること。 ⇒ 有為転変 ⇒ 有為無常 |
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作家
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作品
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夏目漱石 |
【吾輩は猫である】
悪寒はますます劇(はげ)しくなる、眼はいよいよぐらぐらする。もしや四時までに全快して約束を履行(りこう)する事が出来なかったら、気の狭い女の事だから何をするかも知れない。情(なさ)けない仕儀になって来た。どうしたら善かろう。万一の事を考えると今の内に有為転変(ういてんぺん)の理、生者必滅(しょうじゃひつめつ)の道を説き聞かして、もしもの変が起った時取り乱さないくらいの覚悟をさせるのも、夫(おっと)の妻(つま)に対する義務ではあるまいかと考え出した。僕は速(すみや)かに細君を書斎へ呼んだよ。呼んで御前は女だけれども many a slip 'twixt the cup and the lip と云う西洋の諺(ことわざ)くらいは心得ているだろうと聞くと、そんな横文字なんか誰が知るもんですか、あなたは人が英語を知らないのを御存じの癖にわざと英語を使って人にからかうのだから、宜(よろ)しゅうございます、どうせ英語なんかは出来ないんですから、そんなに英語が御好きなら、なぜ耶蘇学校(ヤソがっこう)の卒業生かなんかをお貰いなさらなかったんです。あなたくらい冷酷な人はありはしないと非常な権幕(けんまく)なんで、僕もせっかくの計画の腰を折られてしまった。君等にも弁解するが僕の英語は決して悪意で使った訳じゃない。全く妻(さい)を愛する至情から出たので、それを妻のように解釈されては僕も立つ瀬がない。それにさっきからの悪寒(おかん)と眩暈(めまい)で少し脳が乱れていたところへもって来て、早く有為転変、生者必滅の理を呑み込ませようと少し急(せ)き込んだものだから、つい細君の英語を知らないと云う事を忘れて、何の気も付かずに使ってしまった訳さ。
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芥川龍之介 |
【冬】
女中は瓦斯暖炉(ガスだんろ)に火をともし、僕一人を部屋の中に残して行った。多少の蒐集癖を持っていた従兄はこの部屋の壁にも二三枚の油画(あぶらえ)や水彩画(すいさいが)をかかげていた。僕はぼんやりそれらの画(え)を見比べ、今更のように有為転変(ういてんぺん)などと云う昔の言葉を思い出していた。
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中島敦 |
【悟浄出世】
「だが、若い者よ。そう懼(おそ)れることはない。浪(なみ)にさらわれる者は溺(おぼ)れるが、浪に乗る者はこれを越えることができる。この有為転変(ういてんぺん)をのり超えて不壊不動(ふえふどう)の境地に到ることもできぬではない。古(いにしえ)の真人(しんじん)は、能(よ)く是非を超え善悪を超え、我を忘れ物を忘れ、不死不生(ふしふしょう)の域に達しておったのじゃ。
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幸田露伴 |
【二日物語】
出羽にいでゝ多喜の山に薄紅(うすくれなゐ)の花を愛(め)で、象潟(きさかた)の雨に打たれ木曾の空翠(くうすゐ)に咽んで、漸く花洛(みやこ)に帰り来たれば、是や見し往時(むかし)住みにし跡ならむ蓬が露に月の隠るゝ有為転変の有様は、色即空(しきそくくう)の道理(ことわり)を示し、亡きあとにおもかげをのみ遺し置きて我が朋友(ともどち)はいづち行きけむ無常迅速の為体(ていたらく)は、水漂草の譬喩(たとへ)に異ならず、
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坂口安吾 |
【我が人生観 (五)国宝焼亡結構論】
万葉の詩人は、有為転変の人の世を飛鳥川になぞらえて、昨日の淵は今日は瀬となる、と詠歎し、彼らの生活に於て変化の甚しきものは川の流れであることを素朴に表現しているのである。
大黄河にもみまくられて育ったシナの歴史や文化にくらべれば、飛鳥川に有為転変の感懐を託していた日本文化の源流というものは、温室育ちも極端であり、あまりにも小さすぎて、いじらしく、悲しく、おかしく、異様ですらある。 |
内田魯庵 |
【二十五年間の文人の社会的地位の進歩】
日本の文人は東京の中央で電灯の光を浴びて白粉の女と差向いになっていても、矢張り鴨の長明が有為転変を儚なみて浮世を観ずるような身構えをしておる。同じデカダンでも何処かサッパリした思い切りのいゝ精進潔斎的、忠君愛国的デカダンである。
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清水紫琴 |
【野路の菊】
有為転変の世の習ひ、昨日までは玉楼金殿の裏に住居し貴人さへ、今日は往来の人に道を狭められ車夫にさへ叱り飛ばされ、見るもいぢらしき姿となるがある世に、算盤珠の外れ易き、商業界に身を置きし金三の、流行紳士ともてはやされしも一時。
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岡倉覚三 |
【茶の本】
しかしながら十五世紀禅の個性主義が勢力を得るにつれて、その古い考えは茶室に連関して考えられ、これにある深い意味がしみこんで来た。禅は仏教の有為転変(ういてんぺん)の説と精神が物質を支配すべきであるというその要求によって家をば身を入れるただ仮りの宿と認めた。
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田山花袋 |
【ある僧の奇蹟】
時には以前の生活がかれの心に蘇(よみがへ)つて来た。新しい思想のチャンピオンであり、「恐ろしい群」の第一人者であり、デカダンの徒の一人であつたかれが、かうして田舎(ゐなか)の廃寺の中にひとり生活してゐるといふことが不思議に思はれた。広い世間にも、かれ程有為転変(うゐてんぺん)の生活を送つたものはないであらう。
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岡本かの子 |
【母子叙情】
芸術という難航の世界、夫をそれに送りつけ、自分もその渦中に在る。つくづくその世界の有為転変を知るかの女は、世間の風聞にもはや動かされなくなっているにしても、しかし、それを通じて風浪の荒い航行中に、少くともかの女のむす子は舵(かじ)を正しく執りつつあるのを見て取った。健気(けなげ)なむす子よ、とかの女は心で繰り返した。
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三遊亭圓朝 |
【菊模様皿山奇談】
大奸は忠に似て大智は愚なるが如しと宜なり。此書は三遊亭圓朝子が演述に係る人情話を筆記せるものとは雖も、其の原を美作国久米郡南条村に有名なる皿山の故事に起して、松蔭大藏が忠に似たる大奸と遠山權六が愚なるが如き大智とを骨子とし、以て因果応報有為転変、恋と無常の世態を縷述し、読む者をして或は喜び或は怒り或は哀み或は楽ましむるの結構は実に当時の状況を耳聞目撃するが如き感ありて、
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宮本百合子 |
【二つの庭】
伸子は、もう若くないその男の半分真面目のような半分真面目でないような口元の表情や目くばりから、透明でない感じをうけた。女二人が仲がよくて、どうやっているのか。好奇心が、性的な意味に集中されていると伸子は感じた。それをいい出した男の有為転変的な生活のいく分を伸子は知っていた。いうひとのもっている空気とのつながりで、なにかえたいのしれないグロテスクなことが、その質問のかげに思惑されているように思えて、伸子は、そういう興味が向けられることを憎悪した。
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中里介山 |
【大菩薩峠 京の夢おう坂の夢の巻】
「その後、拙者は身世(しんせい)の数奇(さっき)というやつで、有為転変(ういてんぺん)の行路を極めたが、天下の大勢というものにはトンと暗い、京都はどうなっている、江戸はどうだ、それから、君の故郷の薩摩や、長州の近頃の雲行きはどうなっている、知っているなら話してくれないか」
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