作 家
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作 品
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幸田露伴 |
【些細なやうで重大な事】 一丁の墨、一箇のペンもその扱ひやうに依つては、充分に役立つに拘らず、何程の効も為さずして終つて了ふ。 |
伊藤左千夫 |
【姪子(めいご)】 麦搗(むぎつき)も荒(あら)ましになったし、一番草も今日でお終(しま)いだから、おとッつぁん、熱いのに御苦労だけっと、鎌を二三丁買ってきてくるっだいな、此(この)熱い盛りに山の夏刈(なつがり)もやりたいし、畔草(あぜくさ)も刈っねばなんねい……山刈りを一丁に草刈りを二丁許(ばか)り、何処(どこ)の鍛冶屋(かじや)でもえいからって。 |
佐々木味津三 |
【右門捕物帖 生首の進物】 いうや否や、韋駄天(いだてん)で行ったかと思いましたが、案外にさっそく見つかったとみえて、屈強な替え肩を二人ずつ伴いながら、早駕籠仕立てで威勢のいいところを二丁ひっぱってまいりましたので、一丁は伝六へ、一丁は右門自身で、そして右門みずからは北町奉行ご配下をひとめぐりしようと、すぐに息づえを上げさせました。 |
佐々木味津三 |
【右門捕物帖 死人ぶろ】 夜、お寺参りするのもおかしいがと思ってお迎えにいったら、米屋のあのおやじさんが、鍬(くわ)を一丁と重そうなふろしき包みを一つ持ってお乗んなすったんですよ。 |
横光利一 |
【七階の運動】 久慈は爪切りを一丁買ふと十円紙幣を支払つた。 |
横瀬夜雨 |
【田舍の新春】 鳥追ひの晩には、その年の定まつた番の家へ豆腐一丁と餅とを運ぶ。當番の家ではそれで田樂をつくる。 |
大阪圭吉 |
【カンカン虫殺人事件】 喬介が笑いながら私の前へ差し出したのは、飛びッ切(きり)上等の飾(かざり)が付いた鋭利な一丁のジャックナイフだ。 |
南部修太郎 |
【探偵小説の魅力】 紳士から二三間離れた小卓には發射されたままの一丁のピストルがのせてあつた。 |
細井和喜蔵 |
【女給】 「ボーイさん、カツ一枚とビール一本。」と言って注文した。すると彼女はきまり悪そうな声で。 「カツ一丁……。」とコック場へ向って呼んだ。 |
穂積陳重 |
【法窓夜話】 大正四年の夏より秋に掛けて上野不忍(しのばず)池畔に江戸博覧会なるものが催された。その場内に大岡越前守忠相(ただすけ)の遺品が陳列してあったが、その中に子爵大岡忠綱氏の出品に係る鑷(けぬき)四丁があって、その説明書に「大岡越前守忠相ガ奉行所ニ於テ断獄ノ際、常ニ瞑目シテ腮髯(あごひげ)ヲ抜クニ用ヒタルモノナリ」と記してあった。その鑷は大小四丁あって、その一丁は約七寸余もあろうかと思われるほどで、驚くべき大きさのものである。その他の三丁も約五寸乃至(ないし)三寸位のもので、今日の普通の鑷に較べると実に数倍の大きさである。 |