作 家
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作 品
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岡本かの子 |
【鯉魚】 禅寺(ぜんでら)では食事のとき、施餓鬼(せがき)のため飯を一箸(はし)ずつ鉢(はち)からわきへ取除(とりの)けておく。 |
原民喜 |
【美しき死の岸に】 夕食の用意が出来て枕頭に置かれた。が、妻は母親のすすめる食事を厭(いと)うように、わずかに二箸ばかり手をつけるだけだった。電灯のあかりの下に、すべてが薄暗くふるえていた。 |
海野十三 |
【赤外線男】 当直は夜食(やしょく)の親子丼(おやこどんぶり)の蓋(ふた)をとった。 二箸(ふたはし)、三箸(みはし)つけたところへ、署外からジリジリと電話がかかって来た。 「当直へ電話です」と電話口へ出た見習(みならい)警官が云った。 「おお」当直は急いでもう一と箸、口の中に押しこむと、立って卓子(テーブル)電話機をとりあげた。 |
堺利彦 |
【獄中生活】 そこで十五名一列になって膳の前に坐ると、そこに突立っている看守から「礼!」という号令がかかる。それで一礼して箸をとる。予は僅に二箸三箸をつけたのみで、ほとんど何ものをも食い得なんだ。また、「礼!」という号令の下に一礼して立ちあがると、今度は右側の室の鉄の戸を開けて七八人ずつ入れられた。 |