作 家
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作 品
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芥川龍之介 |
【地獄變】 同じ地獄變と申しましても、良秀の描きましたのは、外の繪師のに比べますと、第一圖取りから似て居りません。それは一帖の屏風の片隅へ、小さく十王を始め眷屬たちの姿を描いて、あとは一面に紅蓮大紅蓮(ぐれんだいぐれん)の猛火が、劍山刀樹も爛れるかと思ふ程渦を卷いて居りました。 |
太宰治 |
【風の便り】 誰ですか? みんなが君を、大事にしているじゃありませんか。君は慾張りです。一本の筆と一帖の紙を与えられたら、作家はそこに王国を創(つく)る事が出来るではないか。君は、自身の影におびえているのです。 |
岡本綺堂 |
【半七捕物帳 女行者】 息子は久次郎といって、ことし二十歳(はたち)になるんですが、俳優(やくしゃ)の河原崎権十郎にそっくりだというので、権十郎息子というあだ名をつけられて、浮気な娘なんぞは息子の顔みたさに、わざわざ遠いところから半紙一帖ぐらいを伊勢屋まで買いに来るようなわけで、かたがた其の店も繁昌していたんですが、例の行者のところへ行って来てから、なんだか少し気が変になったというんです」 |
中里介山 |
【大菩薩峠 お銀様の巻】 いま主膳を驚かしたその血の塊は、外(よそ)から出たのではありません、自分の鼻から出た鼻血でありました。けれども紙で拭いたその血を行燈の光で見ると夥(おびただ)しいもので、黒く固まってドロドロして、しかもそれが一帖の畳紙(たとう)を打通(ぶっとお)して染(し)みるほどに押出して、まだ止まらないのです。 |
三遊亭圓朝 鈴木行三 校訂編纂 |
【政談月の鏡】 武「これ此処(こゝ)に有る紙を一帖(いちじょう)呉れんか」 喜「へいお入来(いで)なさいまし是は何うも御免なさいまし、誠に有難う、其処(そこ)に札が附いてます、一帖幾らとして有りますへい半紙は二十四文で、駿河(するが)半紙は十六文、メンチは十個(とお)で八文でげす、藁草履は私(わっち)の処が一番安いのでございます、有難う誠に何うも、其処へ行くんですが、ちょいと銭を箱の中へ放り込んで一帖持って行って下さいまし、札が附いてますから間違えは有りません」 |
ニコライ・ゴーゴリ 平井 肇 訳 |
【外套】 彼の部屋にも所持品にも封印はされなかった。それというのも第一には相続人がなかったし、第二に遺産といってもほとんど取るに足らなかったからである。すなわち、鵞ペンが一束に、まだ白紙のままの公用紙が一帖、半靴下が三足、ズボンからちぎれたぼたんが二つ三つ、それに読者諸君が先刻御承知の《半纏(はんてん)》−−それだけであった。 |
南方熊楠 |
【易の占いして金取り出だしたること】 太守身を起こし階を下ると同時に、堂上の朽ちた梁が落ちて、太守が今まで占めおった公座を砕いた。太守は箱を受け取り開きみると、一帖あり、汝わが十世の孫の貧を救え、われ汝の堕梁の厄を救うと書き付けたを見て、太守は活命の恩を拝謝し、袁天綱の十代めの孫を薦めて官途に就かせ、活計を得せしめたという(『淵鑑類函三二三』)。 |