作 家
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作 品
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水野仙子 |
【四十餘日】 産婦の眠つてる間にそつと白木の小さな箱を縁に出して、繩をかけて爺はそれを背負つた。母親はその上に赤い裏のついた着物をかけた。見えないやうにと爺はその上に蓑を着て、羽織をひつかけた宗三郎は、一把の赤い線香を袂に入れて先に立つた。 |
石川啄木 |
【雲は天才である】 多分此時まで失神して居たのでせうが、よくも倒れずに立つて居たものと不思議に思ひました。線香ですか? 線香はシッカリ握つて居ました、堅く、しかし濡れて用に立たなくなつて居るのです。 『また買はうと思つたんですが、濡れてビショ/\の袂に一錢五厘しか殘つて居ないんです。一把二錢でしたが……。本を賣つた三十錢の内、國へ手紙を出さうと思つて、紙と状袋と切手を一枚買ひましたし、 |
芥川龍之介 |
【一塊の土】 「お前さんとこのお民さんは顔に似合はなえ力があるねえ。この間も陸稲(をかぼ)の大束を四把(ぱ)づつも背負つて通つたぢやなえかね。」 |
宮沢賢治 |
【オツベルと象】 ある晩象は象小屋で、三把の藁をたべながら、十日の月を仰(あお)ぎ見て、 「苦しいです。サンタマリア。」と云ったということだ。 |
三鳥山人 (みどりさんじん) (夢野久作) |
【豚吉とヒョロ子】 それから今度は下へ降りて、宿屋の台所へ行って塩を沢山と、物置へ行って六尺棒を一本と、大きな鋸(のこぎり)を一梃と、縄の束を一把と取って、又二階へ帰りますと、何も知らずに寝ているヒョロ子と豚吉にシビレ薬を嗅がせ初めました。 |
原民喜 |
【小さな村】 さきほどから、私はそれがひどく心配でならなかつたのだが、その男はこくりと頷き、二把の薪を背負ふと、とつとと朽木橋を渡つて行つた。 |