作 家
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作 品
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楠山正雄 |
【松山鏡】 おとうさんはやっと座(すわ)って、お茶(ちゃ)を一杯(ぱい)のむ暇(ひま)もないうちに、包(つつ)みの中から細長(ほそなが)い箱(はこ)を出(だ)して、にこにこしながら、 「さあ、お約束(やくそく)のおみやげだよ。」 といって、娘(むすめ)に渡(わた)しました。 |
夏目漱石 |
【坊っちゃん】 中学校に居た時ウィッチと云う言葉を習った事があるがこの女房はまさにウィッチに似ている。ウィッチだって人の女房だから構わない。とうとう明日から引き移る事にした。帰りに山嵐は通町(とおりちょう)で氷水を一杯奢(ぱいおご)った。学校で逢った時はやに横風(おうふう)な失敬な奴だと思ったが、こんなにいろいろ世話をしてくれるところを見ると、わるい男でもなさそうだ。 |
芥川龍之介 |
【三つの窓】 K中尉は小心(しょうしん)ものだけに人一倍彼に同情し、K中尉自身の飲まない麦酒(ビール)を何杯も強(し)いずにはいられなかった。が、同時にまた相手の酔うことを心配しずにもいられなかった。 |
有島武郎 |
【或(あ)る女(前編)】 「母の初七日(しょなぬか)の時もね、わたしはたて続けにビールを何杯飲みましたろう。なんでもびんがそこいらにごろごろころがりました。 |
三鳥山人 (みどりさんじん) (夢野久作) |
【豚吉とヒョロ子】 最前の通り、二粒か三粒宛(ずつ)御飯を口に入れて、よく念を入れて噛んでは、お汁(つゆ)をほんのすこし嘗めながら、やっと御飯を一杯とお汁(つゆ)を一杯たべてしまいまして、又一杯食べようとしますと、何だか裏の方で人が騒いでいるようです。 |
林芙美子 |
【お父さん】 「戦争に敗けておしるこなんかたべられないよ」 とおっしゃいました。 でも、このあいだ、中野のとおりをおかあさんと歩いていたら、一ぱい十円のあまいあまいおしるこというびらを露店でさげているのを僕はみたのだけれど、一ぱい十円もするおしるこはどんなにあまいのだろうと思いました。 おかあさんは「高いおしるこね」とおっしゃいました。 |