作 家
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作 品
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芥川龍之介 |
【蜘蛛の糸】 そうしてそれだけの善い事をした報(むくい)には、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。幸い、側を見ますと、翡翠(ひすい)のような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。御釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮(しらはす)の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下(おろ)しなさいました。 |
芥川龍之介 |
【河童どうかKappaと発音してください。】 そのうちにやっと気がついてみると、僕は仰向(あおむ)けに倒れたまま、大勢の河童にとり囲まれていました。のみならず太い嘴(くちばし)の上に鼻目金(はなめがね)をかけた河童が一匹、僕のそばへひざまずきながら、僕の胸へ聴診器を当てていました。その河童は僕が目をあいたのを見ると、僕に「静かに」という手真似(てまね)をし、それからだれか後ろにいる河童へQuax,quaxと声をかけました。するとどこからか河童が二匹、担架(たんか)を持って歩いてきました。僕はこの担架にのせられたまま、大勢の河童の群がった中を静かに何町か進んでゆきました。 |
岡本綺堂 |
【青蛙堂鬼談】 今夜の御馳走にも大きい蟹が出るはずになっているのですが、主人と客をあわせて七人前のつもりですから、蟹は七匹しか用意してないところヘ、不意にひとりのお客がふえたのでどうすることも出来ない。 |
長谷川時 |
【きもの】 しかも、寸法も、男は何寸、女は何寸と定法(じやうはふ)があり、大概それで誰にも着られる。子供は、何歳までが四ツ身、その下が三ツ身、その下が赤児用の一ツ身で、四ツ身は何尺の裂地が入用、一匹の布(成人用の四反が一機(ひとはた)で、二反つながつてゐるのが一匹)で四ツ身は三ツとれる、三ツ身は半反で出来る、一ツ身は一反の三分の一の裂れ地で出来ると教へられる。 |
南方熊楠 |
【十二支考(1)虎に関する史話と伝説民俗】 王いわく「吾子よ汝は善くした、それじゃ彼の髯(ほおひげ)を数え見よ、汝も知る通りすべて三九二十七毛あるはずだ、一つでも足らなんだら汝は孤(わし)に布二匹を賠(はら)わにゃならぬ」、かの者答う「父よ勘定が合うて二十七毛確かにござります」 |
有島武郎 |
【或(あ)る女(後編)】 静かに鈍く生命を脅かす腰部の痛み、二匹の小魔(しょうま)が肉と骨との間にはいり込んで、肉を肩にあてて骨を踏んばって、うんと力任せに反(そ)り上がるかと思われるほどの肩の凝り、だんだん鼓動を低めて行って、呼吸を苦しくして、 |
太宰治 |
【風の便り】 君に今、一ばん欠けているものは、学問でもなければお金でもない。勇気です。君は、自身の善良性に行きづまっているのです。だらしの無い話だ。作家は例外なく、小さい悪魔を一匹ずつ持っているものです。いまさら善人づらをしようたって追いつかぬ。 |
海野十三 (丘丘十郎) |
【地球発狂事件
】 水戸は「もちろん神々によって支配されたる有難い世だ」と言ったのに対し、ハリ・ドレゴは「いや違う。この世は今や九百九十匹の悪魔と、僅か十人の神様とによって支配されているのだ。その生残りの神様も遠からず、この世から追放されてしまうであろう」と心細いことを主張して譲らなかった。 |
作者不詳 国民文庫 (明治43年) 校訂: 古谷知新 |
【源平盛衰記】 治承五年五月十九日 正六位上源朝臣行家 ? とぞ書たりける。此祭文に、神馬三匹銀剣一振、上矢二筋相具して、太神宮へ奉進す。 |
作者不詳 国民文庫 (明治43年) 校訂: 古谷知新 |
【源平盛衰記】 其上大名三十人に仰て、一人別の結構には、鞍置馬裸馬各一匹、長櫃一合、其中には宿物一領、小袖十領、直垂五具、絹十匹入べし、此外不可過分と被下知ければ、三十人面々に我おとらじと、馬は六鈴沛艾を撰び、鞍は金銀を鏤たりけれ共、下らざりければ、是も面々に本意なき事にぞ思ひ申ける。 |