作 家
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作 品
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内村鑑三 |
【楽しき生涯(韻なき紀律なき一片の真情)】 一函の書に千古の智恵あり 以て英雄と共に語るを得べし 一茎の筆に奇異の力あり 以て志を千載に述るを得べし |
徳田秋声 |
【黴】 笹村はある日の午後、家を捜しに出て、途中からふと思い出したように引き返して来た。その日は薄曇りのした気の重い日であった。青木堂でラヘルを二函(ふたはこ)紙に包んでもらって、大学病院の方へ入って行くと、蕾(つぼみ)の固い桜の片側に植わった人道に、薄日が照ったり消えたりしていた。笹村は自分のことにかまけて、しばらくM先生の閾(しきい)もまたがずにいた。先生と笹村との間には、時々隔りの出来ることがあった。 |
小島烏水 |
【天竜川】 乗客一同は又迎へられて、船中の人となつた、榎の渡しを横に見て、川田(かはだ)温田(ぬくだ)の二村のあるところで、乗客は大体どつちかの村へ下りた、饂飩五函、塩一俵が岸に揚がつた、村近くなつて、峡流(カニヨン)も静かになり、米を舂く水車船も、どうやら呑気らしい、御供(ほや)といふ荒村にしばらく船をとゞめて、胡桃の大木の陰になつてゐる川添ひの、茶屋で、私たちは昼飯を食べた、下条村の遠州(ゑんしう)街道(かいだう)が、埃で白い路を一筋、村の中を通つてゐる、ここで、又残りの荷があらかた卸された。 |