作 家
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作 品
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直木三十五 |
【巌流島】 何故(なぜ)かというと、この位の名人上手同志の試合になると、勝負といってもほんの一分(ぶ)か二分早く剣が届くか届かぬかで決まるものである。囲碁にたとえると一目か二目の細局である。伊藤一刀斎とか柳生宗矩(やぎゅうむねのり)なども、 「勝負は五分か一寸の内にあり」 と云っている。 |
菊地寛 |
【碁の手直り表】 直木は、将棋も麻雀も下手だった。将棋などは、一寸気の利いた手を指すかと思うと、とんでもない悪手をさした。やりっぱなしの放漫な将棋である。碁もそうした所もあったが、専心研究した甲斐あって、この二三年三四目上達したらしい。去年の春頃打つと、四目置いて敵わない位であった。 自分は、ぼんやりしている直木を慰めてやるつもりもあって、直木とよく打った。だから直木とだけしか打たなかった。その内に、そっと稽古をして、直木を互先で負かしてやろうかと云ういたずら気もあったが、何分忙しいので、そのままに過ぎていた。 だから、四目で四番勝ち越して、三目になったこともあるが、すぐ四目に追い込まれた。 だが、去年の暮は勝ち越して、三目になっていた。今年になって、ちゃんと手直り表を貼りつけて置いてから、勝敗をハッキリさせることにした。 |