作 家
|
作 品
|
作者不詳 国民文庫 (明治44年) |
【義経記】 巻第七 「早々参りて、大和坊御代官に笛を仕れ」と言はれて、判官仏壇の影の仄暗き所より出で給ひて、少人の末座にぞ居給ひける。大衆「さらば管絃の具足参らせよ」と申しければ、長吏の許より、臭木のこう〔胴〕の琴一張、錦の袋に入れたる琵琶一面取寄せ、琴をば「御客人に」とて、北の方に参らせける。 |
泉鏡花 |
【義血侠血】 さて太夫はなみなみ水を盛りたるコップを左手(ゆんで)に把(と)りて、右手(めて)には黄白(こうはく)二面の扇子を開き、やと声発(か)けて交互(いれちがい)に投げ上ぐれば、露を争う蝶一双(ひとつ)、縦横上下に逐(お)いつ、逐われつ、雫(しずく)も滴(こぼ)さず翼も息(やす)めず、太夫の手にも住(とど)まらで、 |
岡本綺堂 |
【半七捕物帳 奥女中】 床の間の花瓶には撫子(なでしこ)がしおらしく生けてあって、壁には一面の琴が立ててあったが、もう眼が眩(くら)んでいるお蝶には何がなにやら能(よ)くもわからなかった。 |
芥川龍之介 |
【秋】 その中に若い細君の存在を語つてゐるものは、唯床の間の壁に立てかけた、新しい一面の琴だけであつた。信子はかう云ふ周囲から、暫らく物珍しい眼を離さなかつた。 |
芥川龍之介 |
【老いたる素戔嗚尊】 彼はかう憤りながら、暫く苦しい歩みを続けて行つた。と、路を遮(さへぎ)つた、亀の背のやうな大岩の上に、六つの鈴のついてゐる、白銅鏡が一面のせてあつた。 |
宮本百合子 |
【一本の花】 それ等とまるで対立して一方に暗い引っぱりと、それに牽(ひ)かれて傾く心の傾斜とを感じているのであった。片側ずつ、夜、昼と描き分けられた一面の風景画のような心であった。 |
宮本百合子 |
【衣服と婦人の生活 −−誰がために−−
】 テニスンが物語っているとおり古い城の塔の中に孤独な生活をしているシャロットの姫はというとその古い蔦のからんだ塔の中で一面の大きな鏡の前で機を織って暮している。 |
高山樗牛 |
【瀧口入道】 側(かたは)らにある衣桁(いかう)には、紅梅萌黄(こうばいもえぎ)の三衣(さんえ)を打懸けて、薫(た)き籠(こ)めし移り香(が)に時ならぬ花を匂はせ、机の傍に据ゑ付けたる蒔繪の架(たな)には、色々の歌集物語(かしふものがたり)を載せ、柱には一面の古鏡を掛けて、故(わざ)とならぬ女の魂見えて床し。 |
寺田寅彦 |
【自画像
】 要するに一面の鏡だけでは永久に自分の顔は見られないという事に気がついたのである。 |
寺田寅彦 |
【写生紀行】 しかし黒人(くろうと)になればたぶんただ一面のちゃぶ台、一握りの卓布の面の上にでもやはりこれだけの色彩の錯綜(さくそう)が認められるのであろう。 |