作 家
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作 品
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寺田寅彦 |
【静岡地震被害見学記】 これで思い出したのは、関東大震災のすぐあとで小田原の被害を見て歩いたとき、とある海岸の小祠(しょうし)で、珍しく倒れないでちゃんとして直立している一対の石燈籠を発見して、どうも不思議だと思ってよく調べてみたら、台石から火袋(ひぶくろ)を貫いて笠石(かさいし)まで達する鉄の大きな心棒がはいっていた。 |
魯迅 井上紅梅 訳 |
【故郷】 午後、彼は入用の物を幾つか撰り出していた。長卓二台、椅子四脚、香炉と燭台一対ずつ、天秤(てんびん)一本。またここに溜っている藁灰も要るのだが、(わたしどもの村では飯を焚く時藁を燃料とするので、その灰は砂地の肥料に持って来いだ)わたしどもの出発前(ぜん)に船を寄越して積取ってゆく。 |
島崎藤村 |
【夜明け前 第二部 上】 長州兵の中には怒って外人の無礼を懲らそうと主張するものが出て来た。こうなると、町々は焼き払われるだろうと言って、兵火の禍(わざわ)いに罹(かか)ることを恐れる声が一層住民を狼狽(ろうばい)させた。長州兵の隊長は本陣高崎弥五平(たかさきやごへい)方に陣取ったが、同藩の定紋を印(しる)した高張提灯(たかはりぢょうちん)一対を門前にさげさせて、長州藩の兵士たることを証し、なおその弥五平宅で英国士官と談判した。 |
芥川龍之介 |
【妖婆】 さて次の間へ通った新蔵は、遠慮なく座蒲団を膝へ敷いて、横柄(おうへい)にあたりを見廻すと、部屋は想像していた通り、天井も柱も煤の色をした、見すぼらしい八畳でしたが、正面に浅い六尺の床があって、婆娑羅大神(ばさらだいじん)と書いた軸の前へ、御鏡が一つ、御酒徳利が一対、それから赤青黄の紙を刻んだ、小さな幣束(へいそく)が三四本、恭しげに飾ってある、−−その左手の縁側の外は、すぐに竪川の流でしょう。 |
佐々木味津三 |
【旗本退屈男 第二話 続旗本退屈男】 「こりゃ京弥、それから菊!」 雛の一対のごとき二人が、なぜとはなくもうぼッと頬に紅(べに)を染めながら、相前後してそこに現れるのをみると、退屈男は猪突に愛妹へ言いました。 「のう菊、お前にちと叱られるかも知れぬが、京弥に少々用があるゆえ、この兄が二三日借用致すぞ」 |
与謝野晶子 |
【新婦人協会の請願運動】 私の体験を根拠としていえば、恋愛は高く遙かに政治や、法律や、科学や、論理の彼方(かなた)にあります。熱愛する一対の男女の中に健康診断書の有無が何であろうぞ。あるいは法律に由って恋愛の完成を擁護されることはあっても、如何なる場合にも恋愛が法律に由って拒まるべき性質のものではありません。 |
夏目漱石 |
【こころ】 私(わたくし)の知る限り先生と奥さんとは、仲の好(い)い夫婦の一対(いっつい)であった。家庭の一員として暮した事のない私のことだから、深い消息は無論解(わか)らなかったけれども、座敷で私と対坐(たいざ)している時、先生は何かのついでに、下女(げじょ)を呼ばないで、奥さんを呼ぶ事があった。(奥さんの名は静(しず)といった)。 |
岡本かの子 |
【かの女の朝】 −−ね、あんたアミダ様、わたしカンノン様。 と、かの女は柔(やわら)かく光る逸作の小さい眼を指差し、自分の丸い額(ひたい)を指で突いて一寸(ちょっと)気取っては見たけれど、でも他人が見たら、およそ、おかしな一対(いっつい)の男と女が、毎朝、何処(どこ)へ、何しに行くと思うだろうとも気がさすのだった。うぬ惚(ぼ)れの強いかの女はまた、莫迦(ばか)莫迦しくひがみ易(やす)くもある。 |
岡本綺堂 |
【こま犬】 またその狛犬は小袋明神の社前に据え置かれたものであることはいうまでもない。しからば一匹ではあるまい。どうしても一対(いっつい)であるべきはずだというので、さらに近所を掘り返してみると、ようやくにしてその台石らしい物だけを発見したが、犬の形は遂にあらわれなかった。 |