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自家撞着
じかどうちゃく
同一の人物の言動や文章などが前後で食い違い、つじつまが合わないこと。また、言うことと矛盾するような言動をすること。 ⇒ 自家撲滅 ⇒ 自己撞着 ⇒ 自己矛盾
作家
作品

夏目漱石

【創作家の態度】

 そこでこう云う事が起ります。真を描く文学は、真をきわめさえすればよろしいとなる。その結果他の情操と衝突しても、まあ好いとする。――読者の方では好いとしないかも知れませんが――しかしながら真は取捨なき事相であります。公平の叙述であります。好悪の念を離れたる描写であります。したがって褒貶ほうへんの私意をぐうしては自家撞着 じかどうちゃくの窮地におちいります。

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宮沢賢治

【ビジテリアン大祭】

今日いずれの国の法律をもってしても、殺人罪は一番重くばっせられる。間接ではあるけれども、ビジテリアンたちも又この罪をまぬかれない。近き将来、各国から委員が集って充分じゅうぶん商議の上厳重に処罰されるのはわかり切ったことである。又この事実は、ビジテリアンたちの主張が、畢竟ひっきょう 自家撞着じかどうちゃくに終ることを示す。則ちビジテリアンは動物を愛するがゆえに動物を食べないのであろう。何が故にその為に食物を得ないで死亡する、十億の人類を見殺しにするのであるか。人類も又動物ではないか。

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柳田国男

【雪国の春】

 人はみずから奇を好み珍を愛すと称しつつ、多勢が行くなら私も行きたいというのは、笑うに余りある自家撞着である。そんな風だから山水が流行の奴となり、世間が騒いでくれぬと悲しくなるのである。率直に言うと、男鹿の外海ほどの巌ならば方々にある。伊豆の 石廊いろうでも土佐の立串でも、その他全然無名なる中国の海岸でも、まだあの上に青々たる千年の佳松を載せて、今なお一首のへぼ歌をも拝領していないものがいくらもある。

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寺田寅彦

【随筆難】

 少なくも、自分の場合には、いつもただその時に思ったことをその通りに書いてゆくだけであるから、色々間違ったことを書いたり、また前に書いたことと自家撞着 じかどうちゃくするように見えることを平気で書いたりしている場合がずいぶん多いことであろうと思われる。読者のうちにはそういうことに気がついている人は多いであろうが、わざわざ著者に手紙をよこしたりあるいは人伝ひとづてに注意をしてくれる人は存外きわめて稀である。

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太宰治

【お伽草紙】

 浦島は苦笑して、
「身勝手な奴だ。」と呟く。龜は聞きとがめて、
「なあんだ、若旦那。自家撞着してゐますぜ。さつきご自分で批評がきらひだなんておつしやつてた癖に、ご自分では、私の事を淺慮だの無謀だの、こんどは身勝手だの、さかんに批評してやがるぢやないか。若旦那こそ身勝手だ。私には私の生きる流儀があるんですからね。ちつとは、みとめて下さいよ。」と見事に逆襲した。

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岸田國士

【戯曲の生命と演劇美】

「演劇に於ける言葉の役割といふものは極めて微々たるもので、眼に愬へる要素さへ保たれてゐれば、舞台は完全な魅力を発揮するものだといふことを知つた」と大胆に云ひ切つてゐるのである。
 日本の演劇専門家は、今もつて、この意見に賛成するものが多からうと思はれる。ところが、実は、この理窟には、根本的な自家撞着が含まれてゐる。
 日本の芝居と西洋の芝居とは、そこが事情の違ふところで、西洋の芝居は、概して、「白」の意味がわからなくても、「白」の味がわかるのである。

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小酒井不木

【誤った鑑定】

「いや全く探偵小説家のヨタ以上ですね」と察しのよいブライアン氏は言った。「一寸考えて見ると、いかにももっともらしいですが、生理学書の一頁でも見た人には、そういう結論は下されませぬね」
「本当にそうです。肺臓内の血液量は吸息時に最多量で、呼息時には少くなるのですから、呼息時に行われると称する他絞の際に、肺臓の鬱血が劇烈である筈はありません。これだけでも既に自家撞着に陥っています」
「吸息時には肺が拡がるから、血液が追い出されるとでも考えたのでしょう」

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朝永三十郎

【懷疑思潮に付て】

此點に於てピュローンの懷疑論は「ソフィスト」の其れに比べて餘程穩健である。併し、ピュローン等は他の點に於て「ソフィスト」等が未だ到達する能はざりし所まで懷疑説の論理的皈結をば追究して行つた。其れは即ち、懷疑論は其自身を疑ふに至らざれば徹底したる懷疑論とは云へぬ、己れ自身に對して懷疑的態度を取るに至らざれば眞誠の懷疑論者では無いといふことである。普通の懷疑説は懷疑説は眞理であると固執して居る。確實なる善惡眞僞の標凖は無いといふことに着して居る。併し其れは懷疑説の自家撞着である。苟くも眞誠の懷疑論たる以上は懷疑説が眞理であるとも言へぬ譯である、確實なる善惡眞僞の標凖があるとも言へないが、又た無いとも言へない譯である。

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伊東忠太

【誤まれる姓名の逆列】

 或人あるひとまたいつた、なんぢ所論しよろんは一理窟りくつあるが實際的じつさいてきでない。なんぢ歐文おうぶん年紀ねんきしるすとき西暦せいれきもちゐて神武紀元しんむきげんもちゐないのは何故なにゆえか、いはゆる自家撞着 じかどうちやくではないかと。

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末弘厳太郎

【嘘の効用】

 法治主義というのは、あらかじめ法律を定めておいて、万事をそれに従ってきりもりしようという主義です。いわばあらかじめ「法律」という物差しを作っておく主義です。ところが元来「物差し」は固定的なるをもって本質とするのです。「伸縮自在な物差し」それは自家撞着の観念です。例えば、ゴムでできた伸縮自在の物差しを使って布を売る呉服屋があるとしたら、おそらくなにびともこれを信用する人はないでしょう。同じように国家に法律があっても、もしもそれがむやみやたらに伸縮したならば、国民は必ずや拠るべきところを知ることができないで、不平を唱えるに決まってます。

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Last updated : 2024/06/28