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尊皇攘夷
そんのうじょうい
作家
作品

岸田國士

【青年の夢と憂欝 ――力としての文化 第五話】

「志」はまたかの「志望」などという言葉の概念ともおよそかけ離れたもので、ずっと厳粛で悲壮な響きをもち、早く云えば、天下国家のため身命を賭して奮い立つ至誠と情熱であります。「志を抱く」とは、今日まで普通に理解されていたように、単にある目的を目指して勉強するぐらいのことではなくて、国を思う止むに止まれぬ気持から、自分の信念に従って、困難とも思われる道へ踏み出す決意を固めることであります。
 従って、幕末のような時代に於ては、「尊皇攘夷」こそが、日本人の日本人たる「志」であり、そのために身を挺した人々を「志士」と呼ぶのです。
 然しながら、今日に於ては、また別の形で「尊皇攘夷」という精神が高く掲げられなければならないのではありますけれども、それは維新当時の如く、国内に倒さなければならぬ幕府のような存在はなく、全国民の向うべき道は炳乎として定まっているのであります。それゆえに、今日の青年は、おのおのが選ぶ本来の職域に於て、その「志」が遂げ得られることを無上の幸福と考えなければなりません。

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中里介山

【大菩薩峠 三輪の神杉の巻】

 では、机竜之助こそ、松本奎堂あたりに説かれて、改めて天朝へ忠義の心を起したか、徳川へ尽す志を変じたか。
 そんなはずはない、竜之助が新徴組に腕を貸したのとても、なにも徳川に恩顧があるわけでもなければ、幕府を倒してはならないという義憤があるわけではないので、ただ行きがかり上そうなったまでであります。
 されば、「天誅組」の仲間になったとても、事改めてギリギリ歯をんで尊皇攘夷そんのうじょういを絶叫するなんという勢いになれるはずがないのです。ただ、あの喧嘩の一幕を納めた松本奎堂の意気が面白い。

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山路愛山

【頼襄を論ず】

思うに彼をして安政文久の際に在らしむるも彼は決して純乎たる王政復古論を唱え得るものに非ず。必らず 島津斉彬しまづなりあきら 氏一流の見に同じく先ず公武合体論を為して時の宜きに通ぜしめんと欲するに過ぎざらんか。然も彼に因りて日本人は祖国の歴史を知れり。日本人は日本国の何物たるかを知れり。日本国の万国に勝れたる所以を知れり。独り理論的を知れるのみならず詩の如く歌の如き文字を以て之れを教えられたり。後来海警屡至るに及んで天下の人心 俄然がぜんとして覚め、尊皇攘夷の声四海に あまねかりしもの、いづくんぞ知らん彼が教訓の結果に非るを。嗚呼あゝ是れ頼襄の事業也。

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Last updated : 2024/06/28