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天下太平
てんかたいへい
作家
作品

夏目漱石

【創作家の態度】

それじゃ善と悪の混血児あいのこはというとほとんど出て来ないんだから、至極しごく単簡たんかんで重宝であります。こう云う訳で一家町内芝居へ出てくるような善人で成り立っていたのであります。それじゃ天下太平なものでありそうだのに、やっぱり 夫婦喧嘩ふうふげんかも兄弟喧嘩もありました。あったに違なかろうと、まあ思うのです。

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芥川龍之介

【木曾義仲論(東京府立第三中学校学友会誌)】

天下太平は武備機関の制度と両立せず。生産的発展は争乱の時代と並存せず。今や平氏の成功は、其武備機関の制度と両立する能はざる天下太平を齎せり。天下太平は物質的文明の進歩を齎し、物質的文明の進歩は富の快楽を齎せり。単に富の快楽を齎せるのみならず、富の渇想を齎せり。

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太宰治

【三月三十日】

下々の手前達がかくと御政事向の事を取沙汰とりざた致すわけでは御座いませんが、先生、昔から唐土もろこしの世には天下太平しるしには綺麗きれい鳳凰ほうおうとかいう鳥がさがると申します。しかし当節のように何もも一概に綺麗なものや手数のかかったもの無益なものは相成らぬと申してしまった日には、鳳凰なんぞは卵を生む鶏じゃ御座いませんから、いくら出て来たくも出られなかろうじゃ御座いませんか。

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幸田露伴

【平将門】

下らない文字といふものに交渉をもつて、書いたり読んだり読ませたり、挙句あげくの果には読まれたりして、それが人文進歩の道程の、何のとは、はてあり難いことではあるが、どうも大抵の書は読まぬがよい、大抵の文は書かぬがよい。酒をつくらず酒飲まずなら、「下戸やすらかに睡る春の夜」で、天下太平、愚痴無智の尼入道となつて、あかつきのむく起きに 南無阿弥陀仏なむあみだぶつでも吐出した方が洒落しやれてゐるらしい。

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種田山頭火

【行乞記 (二)】

いつぞや福岡地方で同宿したことのある妙な男とまた同宿した、私を尊敬してくれるのは有難いけれど、何だ彼だと附き纒われるのは迷惑だ、彼ぐらい増上慢になれば天下太平、現世極楽だろう。

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Last updated : 2024/06/28