《百人一首・上の句から覚える》 41~60
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「小倉百人一首」とは
百人一首ひゃくにんいっしゅ」とは、読んで字の如く百人の歌を一首ずつ集めたもので、「後撰百人一首」「源氏百人一首」など様々ありますが、最も有名なものが文暦2年・1235年に成立したとされる「小倉百人一首おぐらひゃくにんいっしゅ」です。
 現代において「百人一首」と言えば「小倉百人一首」と言っても過言ではなく、その原型は、鎌倉時代の歌人藤原定家が、嵯峨小倉山荘で奈良時代の天智天皇から鎌倉時代の順徳院まで570年間の百人の歌を選び、百枚の色紙に揮毫した『小倉山荘色紙和歌』『嵯峨山荘色紙和歌』などと呼ばれるものです。
「小倉百人一首」は、第一から第十までの勅撰和歌集の中から選ばれ、『古今集』からの歌が二十四首で最も多く、種別で最も多いのは恋歌で四十三首選ばれています。作者は男性が79人、女性が21人です。
 歌道の入門書として読み継がれ、また、習字の手本として使われたり江戸時代になると木版画による絵入りの「かるた」として庶民の間にも広まり現代に至っています。

勅撰和歌集ちょくせんわかしゅうは、天皇などの命により編纂された歌集のことで、藤原定家が百人一首を選んだのは次の十集です。
  ・ 『古今和歌集』………24首
  ・ 『後撰和歌集』……… 7首
  ・ 『拾遺和歌集』………11首
  ・ 『後拾遺和歌集』……14首
  ・ 『金葉和歌集』……… 5首
  ・ 『詞花和歌集』……… 5首
  ・ 『千載和歌集』………14首
  ・ 『新古今和歌集』……14首
  ・ 『新勅撰和歌集』…… 4首
  ・ 『続後撰和歌集』…… 2首
使い方と説明
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 番号のついた一行目は、短歌の基本形「五・七・五・七・七」の五句のうちの上の句の一句目、つまり、初句・第一句です。
 初句・第一句が同じものが六首あります。この六首については、第二句まで一行目に表記しました。
 二行目は、歴史的仮名遣いによる漢字仮名交じりの句です。定家筆の「色紙」は仮名書きでしたが、後世に様々な人が書写した際、それぞれの和歌の出典を思い出したりしながら漢字仮名交じり文字で書かれ、様々な表記の注釈書などがあまた伝わっています。
 三行目の緑の字は、歴史的仮名遣いによる表記です。
 三行目・四行目で、太字で赤く着色した部分は、「かるたの早取り」として覚えるための上の句の「決まり字」です。
 四行目の青い字の行は、現代仮名遣いによる表記です。
 五行目は、作者とその歌が収められている勅撰和歌集です。
 六行目は、各勅撰集に収められている原歌とされるもの、または、基になっている歌集です。この百人一首とは字句が違うものもあります。
 枕詞、掛詞が含まれる場合は七行目に記しました。枕詞は、係る語を矢印で示しています。
 枕詞、掛詞などにも解釈が様々あるようです。ここに記載したものが全てではありません。歌の表記、作者の読み方などと合わせて専門書などでご確認ください。
 それぞれに、江戸時代初期の浮世絵師・菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の画による「小倉百人一首」を掲載しました。これは、延宝8年・1680年の作品で、国立国会図書館が所蔵するものです。
41 恋すてふ
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
すてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか
こいすちょう わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもいそめしか
壬生忠見みぶのただみ 「拾遺集」
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
42 契りきな
契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは
ちぎりな かたみにそでを しぼりつつ すゑのまつやま なみこさじとは
ちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すえのまつやま なみこさじとは
清原元輔きよはらのもとすけ 「後拾遺集」
契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは
43 逢ひ見ての
逢ひ見ての 後の心に くらぶれば 昔は物を 思はざりけり
みての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり
あいみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもわざりけり
権中納言敦忠ごんちゅうなごんあつただ 「拾遺集」
あひ見ての 後の心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり
44 逢ふことの
逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
あふとの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし
おおことの たえてしなくば なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし
中納言朝忠ちゅうなごんあさただ = 藤原朝忠ふじわらのあさただ 「拾遺集」
あふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
45 あはれとも
あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
あはとも いふべきひとは おもほえで みのいたづらに なりぬべきかな
あわれとも いうべきひとは おもおえで みのいたずらに なりぬべきかな
謙徳公けんとくこう = 藤原伊尹ふじわらのこれまさ 「拾遺集」
あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかな
46 由良の門を
由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな
のとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかな
ゆらのとを わたるふなびと かじをたえ ゆくえもしらぬ こいのみちかな
曽禰好忠そねのよしただ 「新古今集」
由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え 行くへもしらぬ 恋の道かも
47 八重葎
八重葎 しげれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり
むぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり
やえむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり
恵慶法師えぎょうほうし 「拾遺集」
八重むぐら 茂げれる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけり
48 風をいたみ
風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けて物を 思ふころかな
かぜいたみ いはうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな
かぜをいたみ いわうつなみの おのれのみ くだけてものを おもうころかな
源重みなもとのしげゆき 「詞花集」
風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ 砕けてものを 思ふころかな
49 御垣守
御垣守 衛士の焚く火の 夜は燃え 昼は消えつつ 物をこそ思へ
みかもり ゑじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもへ
みかきもり えじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおも
大中臣能宣朝臣おおなかとみのよしのぶあそん 「詞花集」
みかきもり 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ ものをこそ思へ
50 君がため 惜しからざりし
君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
きみがため しからざりし いのちさへ ながくもがなと おもひけるかな
きみがため おしからざりし いのちさえ ながくもがなと おもいけるかな
藤原義孝ふじわらのよしたか 「後拾遺集」
君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな
51 かくとだに
かくとだに えやは伊吹の さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
とだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを
かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもいを
藤原実方朝臣ふじわらのさねかたあそん 「後拾遺集」
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしもしらじな もゆる思ひを
[掛詞] いぶ(き) = 言ふ・伊吹  ひ = (思)ひ・火
52 明けぬれば
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな
ぬれば くるるものとは しりながら なほうらめしき あさぼらけかな
あけぬれば くるるものとは しりながら なおうらめしき あさぼらけかな
藤原道信朝臣ふじわらのみちのぶあそん 「後拾遺集」
明けぬれば くるるものとは 知りながら なほうらめしき あさぼらけかな
53 嘆きつつ
嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る
なげつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる
右大将道綱母うだいしょうみちつなのはは 「拾遺集」
嘆きつつ ひとりぬる夜の あくるまは いかに久しき ものとかは知る
54 忘れじの
忘れじの 行く末までは かたければ けふを限りの 命ともがな
わすじの ゆくすゑまでは かたければ けふをかぎりの いのちともがな
わすれじの ゆくすえまでは かたければ きょうをかぎりの いのちともがな
儀同三司母ぎどうさんしのはは 「新古今集」
忘れじの 行く末までは 難ければ 今日を限りの 命ともがな
55 滝の音は
滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ
のおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ
たきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なおきこえけれ
大納言公任だいなごんきんとう = 藤原公任ふじわらのきんとう 「拾遺集」
滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ
56 あらざらむ
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな
あららむ このよのほかの おもひでに いまひとたびの あふこともがな
あらざらん このよのほかの おもいでに いまひとたびの おおこともがな
和泉式部いずみしきぶ 「後拾遺集」
あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今一度の 逢ふこともがな
57 めぐり逢ひて
めぐり逢ひて 見しやそれとも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな
ぐりあひて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よはのつきかな
ぐりあいて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よわのつきかな
紫式部むらさきしきぶ 「新古今集」
めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくらにし 夜半の月かげ
58 有馬山
有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする
ありやま ゐなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする
ありまやま いなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする
大弐三位だいにのさんみ = 藤原賢子ふじわらのかたこ 「後拾遺集」
有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする
59 やすらはで
やすらはで 寝なましものを 小夜ふけて かたぶくまでの 月を見しかな
らはで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな
やすらわで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな
赤染衛門あかぞめえもん 「後拾遺集」
やすらはで 寝なましものを 小夜ふけて かたぶくまでの 月を見しかな
60 大江山
大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立
おほやま いくののみちの とほければ まだふみもみず あまのはしだて
おおえやま いくののみちの とおければ まだふみもみず あまのはしだて
小式部内侍こしきぶのないし 「金葉集」
大江山 生野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立
[掛詞] いく(の) = 生野・行く  ふみ = 踏み・文

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Last updated : 2024/11/30