《百人一首・下の句から覚える》 81~100
= 百人一首 (小倉百人一首) を覚える =

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「小倉百人一首」とは
百人一首ひゃくにんいっしゅ」とは、読んで字の如く百人の歌を一首ずつ集めたもので、「後撰百人一首」「源氏百人一首」など様々ありますが、最も有名なものが文暦2年・1235年に成立したとされる「小倉百人一首おぐらひゃくにんいっしゅ」です。
 現代において「百人一首」と言えば「小倉百人一首」と言っても過言ではなく、その原型は、鎌倉時代の歌人藤原定家が、嵯峨小倉山荘で奈良時代の天智天皇から鎌倉時代の順徳院まで570年間の百人の歌を選び、百枚の色紙に揮毫した『小倉山荘色紙和歌』『嵯峨山荘色紙和歌』などと呼ばれるものです。
「小倉百人一首」は、第一から第十までの勅撰和歌集の中から選ばれ、『古今集』からの歌が二十四首で最も多く、種別で最も多いのは恋歌で四十三首選ばれています。作者は男性が79人、女性が21人です。
 歌道の入門書として読み継がれ、また、習字の手本として使われたり江戸時代になると木版画による絵入りの「かるた」として庶民の間にも広まり現代に至っています。

勅撰和歌集ちょくせんわかしゅうは、天皇などの命により編纂された歌集のことで、藤原定家が百人一首を選んだのは次の十集です。
  ・ 『古今和歌集』………24首
  ・ 『後撰和歌集』……… 7首
  ・ 『拾遺和歌集』………11首
  ・ 『後拾遺和歌集』……14首
  ・ 『金葉和歌集』……… 5首
  ・ 『詞花和歌集』……… 5首
  ・ 『千載和歌集』………14首
  ・ 『新古今和歌集』……14首
  ・ 『新勅撰和歌集』…… 4首
  ・ 『続後撰和歌集』…… 2首
使い方と説明
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 番号のついた一行目は、短歌の基本形「五・七・五・七・七」の五句のうちの下の句の一句目、つまり、第四句です。
 第四句が同じものが二首あります。この二首については、第五句まで一行目に表記しました。
 二行目は、歴史的仮名遣いによる漢字仮名交じりの句です。定家筆の「色紙」は仮名書きでしたが、後世に様々な人が書写した際、それぞれの和歌の出典を思い出したりしながら漢字仮名交じり文字で書かれ、様々な表記の注釈書などがあまた伝わっています。
 三行目の緑の字は、歴史的仮名遣いによる表記です。
 三行目・四行目で、太字で赤く着色した部分は、「かるたの早取り」として覚えるための上の句の「決まり字」です。
 四行目の青い字の行は、現代仮名遣いによる表記です。
 五行目は、作者とその歌が収められている勅撰和歌集です。
 六行目は、各勅撰集に収められている原歌とされるもの、または、基になっている歌集です。この百人一首とは字句が違うものもあります。
 枕詞、掛詞が含まれる場合は七行目に記しました。枕詞は、係る語を矢印で示しています。
 枕詞、掛詞などにも解釈が様々あるようです。ここに記載したものが全てではありません。歌の表記、作者の読み方などと合わせて専門書などでご確認ください。
 それぞれに、江戸時代初期の浮世絵師・菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の画による「小倉百人一首」を掲載しました。これは、延宝8年・1680年の作品で、国立国会図書館が所蔵するものです。
81 ただ有明の
ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞ残れる
ととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる
ととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる
後徳大寺左大臣ごとくだいじのさだいじん = 藤原実定ふじわらのさねさだ 「千載集」
ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただありあけの 月ぞ残れる
82 憂きに堪へぬは
思ひわび さても命は あるものを 憂きに堪へぬは 涙なりけり
ひわび さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみだなりけり
おもいわび さてもいのちは あるものを うきにたえぬは なみだなりけり
道因法師どういんほうし 「千載集」
思ひ侘び さても命は あるものを 憂きに堪へぬは 涙なりけり
83 山の奥にも
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
よのなか みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかぞなくなる
よのなかよ みちこそなけれ おもいいる やまのおくにも しかぞなくなる
皇太后宮大夫俊成こうたいごうぐうのだいぶとしなり/しゅんぜい = 藤原俊成ふじわらのとしなり/しゅんぜい 「千載集」
世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞなくなる
[掛詞] 入る = (思ひ)入る・(山に)入る
84 憂しと見し世ぞ
ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき
ながへば またこのごろや しのばれむ うしとみしよぞ いまはこひしき
ながらえば またこのごろや しのばれん うしとみしよぞ いまはこいしき
藤原清輔朝臣ふじわらのきよすけあそん 「新古今集」
ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しき
85 閨のひまさへ
夜もすがら 物思ふころは 明けやらで 閨のひまさへ つれなかりけり
すがら ものおもふころは あけやらで ねやのひまさへ つれなかりけり
よもすがら ものおもうころは あけやらで ねやのひまさえ つれなかりけり
俊恵法師しゅんえほうし 「千載集」
夜もすがら もの思ふころは 明けやらぬ 閨のひまさへ つれなかりけり
86 かこち顔なる
嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな
なげとて つきやはものを おもはする かこちがほなる わがなみだかな
なげけとて つきやはものを おもわする かこちがおなる わがなみだかな
西行法師さいぎょうほうし 「千載集」
嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな
87 霧立ちのぼる
村雨の 露もまだ干ぬ 真木の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ
らさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆふぐれ
らさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆうぐれ
寂蓮法師じゃくれんほうし 「新古今集」
村雨の 露もまだひぬ 槙の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ
88 身をつくしてや
難波江の 蘆の仮寝の 一夜ゆゑ 身をつくしてや 恋ひわたるべき
なにはの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや こひわたるべき
なにわえの あしのかりねの ひとよゆえ みをつくしてや こいわたるべき
皇嘉門院別当こうかもんいんのべっとう 「千載集」
難波江の 葦のかりねの 一よゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき
[掛詞] かりね = 刈り根・仮寝  ひとよ = 一節・一夜  みをつくし = 澪標・身を尽くし
89 忍ぶることの
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする
のをよ たえなばたえね ながらへば しのぶることの よわりもぞする
たまのおよ たえなばたえね ながらえば しのぶることの よわりもぞする
式子内親王しょくしないしんのう 「新古今集」
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする
90 濡れにぞ濡れし
見せばやな 雄島のあまの 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色は変はらず
ばやな をじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず
みせばやな おじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかわらず
殷富門院大輔いんぷもんいんのたいふ 「千載集」
見せばやな 小島のあまの 袖だにも ぬれにぞぬれし 色は変はらず
91 衣かたしき
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む
ぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ
きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねん
京極摂政前太政大臣ごきょうごくせっしょうさきのだじょうだいじん = 藤原良経ふじわらのよしつね 「新古今集」
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣片敷き ひとりかも寝む
[掛詞] さむしろ = さ筵・寒し
92 人こそ知らね
わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね 乾く間もなし
わがでは しほひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かはくまもなし
わがそでは しおひにみえぬ おきのいしの ひとこそしらね かわくまもなし
二条院讃岐にじょういんのさぬき 「千載集」
わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね かわく間もなし
93 あまの小舟の
世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ あまの小舟の 綱手かなしも
よのなか つねにもがもな なぎさこぐ あまのをぶねの つなでかなしも
よのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのおぶねの つなでかなしも
鎌倉右大臣かまくらのうだいじん = 源実朝みなもとのさねとも 「新勅撰集」
世の中は 常にもがもな 渚漕ぐ あまの小舟の 綱手かなしも
94 ふるさと寒く
み吉野の 山の秋風 小夜ふけて ふるさと寒く 衣うつなり
しのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
みよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり
参議雅経さんぎまさつね = 藤原雅経ふじわらのまさつね 「新古今集」
み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣打つなり
95 わがたつ杣に
おほけなく うき世の民に おほふかな わがたつ杣に 墨染の袖
おほなく うきよのたみに おほふかな わがたつそまに すみぞめのそで
おおけなく うきよのたみに おおうかな わがたつそまに すみぞめのそで
前大僧正慈円さきのだいそうじょうじえん 「千載集」
おほけなく うき世の民に おほふかな わが立つ杣に すみぞめの袖
[掛詞] すみぞめ = 住み初め・墨染めの衣
96 ふりゆくものは
花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり
はなそふ あらしのにはの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり
はなさそう あらしのにわの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり
入道前太政大臣にゅうどうさきのだじょうだいじん = 藤原公経ふじわらのきんつね 「新勅撰集」
花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり
[掛詞] ふり = 降り・古り(旧り)
97 焼くや藻塩の
来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ
ひとを まつほのうらの ゆふなぎに やくやもしほの みもこがれつつ
こぬひとを まつほのうらの ゆうなぎに やくやもしおの みもこがれつつ
権中納言定家ごんちゅうなごんていか/さだいえ = 藤原定家ふじわらのていか 「新勅撰集」
来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ
[掛詞] まつ = 待つ・松(帆の浦)   こがれ = こがれ・焦がれ
98 みそぎぞ夏の
風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける
かぜよぐ ならのをがはの ゆふぐれは みそぎぞなつの しるしなりける
かぜそよぐ ならのおがわの ゆうぐれは みそぎぞなつの しるしなりける
従二位家隆じゅにいいえたか = 藤原家隆ふじわらのいえたか 「新勅撰集」
風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける
[掛詞] なら = 楢・奈良
99 世を思ふゆゑに
人もをし 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身は
ひとをし ひともうらめし あぢきなく よをおもふゆゑに ものおもふみは
ひともおし ひともうらめし あじきなく よをおもうゆえに ものおもうみは
後鳥羽院ごとばいん 「続後撰集」
人もをし 人もうらめし あぢきなく 世を思ふゆゑに もの思ふ身は
100 なほあまりある
百敷や 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり
しきや ふるきのきばの しのぶにも なほあまりある むかしなりけり
ももしきや ふるきのきばの しのぶにも なおあまりある むかしなりけり
順徳院じゅんとくいん 「続後撰集」
百敷や 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり
[掛詞] しのぶ = 忍ぶ(草)・偲ぶ

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Last updated : 2024/06/28