江戸中期の学者で、詩人、政治家でもあった
新井白石
は、宝暦10年〈1760年〉に次のように述べています。
『 国字というは、本朝にて造れる、異朝の字書に見えぬをいう。故に其訓のみありて、其音なし 』
『 国訓というは、漢字の中、本朝にて用いたる義訓。彼国の字書に見えし所に異なるあり。今これを定めて国訓とはいう也 』
新井白石『同文通考』
つまり、「漢字が異朝より伝わって来たが、日本の文化などにぴったり来るものがない場合は独自に作った。これを国字といい、また、日本独自の意味や読み方を付けたものもあって、これを国訓と呼ぶ」というわけです。
国字はいつから作られたのでしょうか。 和銅5年〈712年〉
に成立した現存する日本最古の歴史書でとされる『古事記』には、現在国字とされる「俣(また)」「鞆(とも)」の字が見られます(寛永21〈1644〉年の写本版には「椙(すぎ)」の字も見られる)。また、平安時代の、承平4年〈934年〉
頃に成立した現存する日本最古の分類体漢和辞書とされる
『
和名類聚抄
』には、現在国字とされる文字が数多く見られます。
《『古事記』に見られる、現在国字とされる文字の例。「鞆」「俣」の字 》
「二俣榲作二俣小舟而持上來」「此太子之御名、所以負大鞆和氣命者、初所生時、如鞆宍生御腕、故著其御名」
《『和名類聚抄』に見られる、現在国字とされる文字の例 》
杣・畠・鞆・籾・囎・𦲤・俣・弖・樫・椙・鎹・辻・𦀌・襷・襅・榊・楾・瓼・薭・鵤・鵇・鰚・鰯・鯰・魸・䱩
ここでは、いわゆる「国字」について見てみます。「国字」のほんの一部ですが、「ほー、ほー、なーるほど。へー、へー、そーなのか。」といったちょっとした知識としてご覧ください。国字の選定には『角川新字源」(2017)などを用いました。
ここでの「国字」とは、中国で作られた漢字の字体に倣い、日本で新たに作られた文字を指します。日本製の漢字、和製漢字です。和字、倭字などとも呼ばれます。(和製漢字 Wikipedia)
関連する種類での分類(*このページ)や、 部首での分類 を行いました。
漢字の数は、Wikipedia によれば、中華民国(台湾)行政院教育部の『異體字字典(正式六版)2017年』には、106,333 字が記されているとされます。
では、日本で作られた「国字」はいくつあるのでしょうか。このことについて、世界文化社刊『ビジュアル「国字」字典(2017年)』(笹原宏之序)では、『一回しか使われていないようなものを含めて、国字とよべるものは一万種類以上あると見ています』と記されています。
東京堂出版刊の『国字の字典(2017年)』では 1,594 字が収載さてれています。
国字については、文献(研究者)によって見解が分かれることもあり、その数などを確定させることは困難なようです。例えば、「国」や「症」の字についてこれらを国字とする文献がある一方、国字ではないとする文献も見られます。(当サイトでは、これらは国字としての収載は行いませんでした)