新しい憲法 明るい生活 = 振り仮名付き =
[ 1947年(昭和22年)5月3日の憲法施行に合わせて全国の家庭に配布された冊子 ]
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「日本国民がお互いに人格を尊重すること。民主主義を正しく実行すること。平和を愛する精神をもつて世界の諸国と交りをあつくすること」
「新憲法が大たん率直に「われわれはもう戦争をしない」と宣言したことは、人類の高い理想をいいあらわしたものであつて、平和世界の建設こそ日本が再生する唯一の途である。今後われわれは平和の旗をかかげて、民主主義のいしずえの上に、文化の香り高い祖国を築きあげてゆかなければならない」
このような書き出しで始まる『新しい憲法 明るい生活』は、1947年(昭和22年)5月3日の憲法施行に合わせて全国の家庭に配布された冊子で、二千万部が作製されたとされます。
「新憲法が私たちに与えてくれた最も大きな贈りものは民主主義政治である。民主主義政治ということを一口に説明すれば「国民による、国民のための、国民の政治」ということである」と「民主主義」を説きます。
さらに、「
私たち日本国民はもう二度と再び戦争をしないと誓つた」「これは新憲法の最も大きな特色であつて、これほどはつきり平和主義を明かにした憲法は世界にもその例がない」「私たちは戦争のない、ほんとうに平和な世界をつくりたい。このために私たちは陸海空軍などの軍備をふりすてて、全くはだか身となつて平和を守ることを世界に向つて約束したのである」と「平和」について記します。
最後に、「私たちは新憲法の実施を迎え、新日本の誕生を心から祝うとともに、この新憲法をつらぬいている民主政治と、国際平和の輝かしい精神を守りぬくために、全力をつくすことを誓おうではないか」と高らかに謳い上げています。
ここでは、この『新しい憲法 明るい生活』の全文を掲載し、1947年(昭和22年)の“平和憲法”の施行を、当時どのように解説していたのかをみてみます。
・「振り仮名」のない『新しい憲法明るい生活』のページはこちらから ≫≫
憲法普及会編
新しい憲法 明るい生活
= 大切に保存して多くの人人で回読して下さい =
新しい日本のために ――発刊のことば
古い
日本は
影をひそめて、
新しい
日本が
誕生した。
生れかわつた
日本には
新しい
国の
歩み
方と
明るい
幸福な
生活の
標準とがなくてはならない。これを
定めたものが
新憲法である。
日本国民がお
互いに
人格を
尊重すること。
民主主義を
正しく
実行すること。
平和を
愛する
精神をもつて
世界の
諸国と
交
りをあつくすること。
新憲法にもられたこれらのことは、すべて
新日本の
生きる
道であり、また
人間として
生きがいのある
生活をいとなむための
根本精神でもある。まことに
新憲法は、
日本人の
進むべき
大道をさし
示したものであつて、われわれの
日常生活の
指針であり、
日本国民の
理想と
抱負とをおりこんだ
立派な
法典である。
わが
国が
生れかわつてよい
国となるには、ぜひとも
新憲法がわれわれの
血となり、
肉となるように、その
精神をいかしてゆかなければならない。
実行がともなわない
憲法は
死んだ
文章にすぎないのである。
新憲法が
大たん
率直に「われわれはもう
戦争をしない」と
宣言したことは、
人類の
高い
理想をいいあらわしたものであつて、
平和世界の
建設こそ
日本が
再生する
唯一の
途
である。
今後われわれは
平和の
旗をかかげて、
民主主義のいしずえの
上に、
文化の
香り
高い
祖国を
築きあげてゆかなければならない。
新憲法の
施行に
際し、
本会がこの
冊子を
刊行したのもこの
主旨からである。
昭和二十二年五月三日 憲法普及会会長 芦田 均
新憲法の特色
私たちの生活はどうなる
◇ 生れかわる日本
昭和二十二年(
一九四七年)
五月三日――それは
私たち
日本国民が
永久に
忘れてはならない
新日本の
誕生日である。
私たちが
久しい
間
待ち
望んでいた
新憲法が、この
日を
期して
実施されるのである。
新憲法が
私たちに
与えてくれた
最も
大きな
贈りものは
民主主義である。
民主主義政治ということを
一口に
説明すれば「
国民による、
国民のための、
国民の
政治」ということである。
民主的な
憲法のもとでは
国民が
政治をうごかす
力を
持ち、
政府も、
役人も、
私たちによつてかえることができる。
多数のものが
望むこと、
多数のものがよいときめて
法律で
定めたこと、これを
実行してゆくのが
民主主義である。
私たちは
民主主義を
口にする
前に、まずすべてのものごとをよく
知り、
正しい
判断を
持つように
心がけなければならない。
特にわが
国では
今まで
政治は
一部の
人人が
思うままに
動かしていたため、
一般国民は
政治について
教えられることが
少く、
自分の
意見をのべることも
窮屈であつた。また
自分の
考えをまとめるだけの
勉強も
足りなかつた。だから
私たちは
新憲法の
実施をよい
機会として
政治のことを
熱心に
学ぶ
必要がある。なぜならばこれからは
政治の
責任はすべて
私たちみんながおうことになつたからである。
新憲法はわが
国に
長い
間
続いてきた
古い
因襲を
大幅に
改めることになつた。
家族制度も
大きくかわつた。
女の
地位も
男と
同等となつた。
憲法に
附属する
民法その
他の
法律によつてこまかい
点は
数えきれないほどかわつてくる。このように
法律だけが
新しくなつても、かんじんの
頭の
切りかえができなくては
何の
役にも
立たない。
新憲法と
共に
新しく
生れかわる
日本――
私たちも
今こそ
生れかわつた
気持で、この
新しい
時代に
生きぬいてゆこう。
◇ 明るく平和な国へ
私たちの
日本を
明るく
平和な
住みよい
国にすること――これが
新憲法の
目的である。
新憲法の
前文にはこの
目的が
力強くのべてある。
旧憲法では
国の
政治の
最高の
権限は
天皇がお
持ちになつていた。そのため
一部の
軍人や
重臣などが
天皇の
名をかりて、わがまま
勝手にふるまい、
悪い
政治を
行うすきが
多かつた。
新憲法では
国の
政治を
行う
大もとの
力は
国民全体にあることが
明かにされた。
従
つて
国の
政治は
何よりもまず
国民全体が
幸福な
生活ができるように
行われなければならない。
決して
特別な
地位にある
人や、
一部の
少数の
人人のために
行われるのではないことが、はつきりと
示されたのである。
◇ 私たちの天皇
天皇は
神様の
子孫であるからというような
神話をもととして、
天皇の
地位や
権限をこの
上なく
重んじていたのが
今日までのゆき
方であつた。
新憲法では
天皇は
日本の
国の
象徴であり、
国民結び
合いの
象徴であるということが
示されてある(
第一条)。これは
私たち
国民全体の
天皇にたいする
共通の
気持をそのままあらわしたものである。
象徴というのは
一つの「めじるし」であつて、これによつて
国そのもの、または
国民結び
合いの
実際の
姿がありありとわかることをいうのである。
富士山をみれば
美しい
日本の
国が、また
桜をみればなごやかな
日本の
春がわかるというのが、そのおよその
意味である。
新憲法では
天皇は
従来とは
違つて
国のいろいろの
政治に
当られないこととなり、
政治の
責任はすべて
内閣、
国会、
最高裁判所がおうことになつた。
政治以外の
国家的な
行事についても、
天皇の
当られる
国事は
非常にすくなくなつた。(
第三条―
第七条)
このように
天皇についての
憲法の
定めがかわつたので、わが
国の
国柄まですつかりかわつてしまつたように
思う
人もある。たしかに
政治をうごかす
力は
私たち
国民のものであるということがはつきりと
示されたし、
形の
上では、ずい
分かわつた。しかし
私たちの
天皇にたいする
尊敬と
信頼の
気持による
結びつき、
天皇を
中心として
私たち
国民が
一つに
結び
合つているという
昔からの
国柄は
少しもかわらないのであるから
国体はかわらないといえるのである。
◇ もう戦争はしない
私たち
日本国民はもう
二度と
再び
戦争をしないと
誓つた。(
第九条)
これは
新憲法の
最も
大きな
特色であつて、これほどはつきり
平和主義を
明かにした
憲法は
世界にもその
例がない。
私たちは
戦争のない、ほんとうに
平和な
世界をつくりたい。このために
私たちは
陸海空軍などの
軍備をふりすてて、
全くはだか
身となつて
平和を
守ることを
世界に
向つて
約束したのである。わが
国の
歴史をふりかえつてみると、いままでの
日本は
武力によつて
国家の
運命をのばそうという
誤つた
道にふみ
迷つてゐた。
殊に
近年は
政治の
実権を
握つていた
者たちが、この
目的を
達するために
国民生活を
犠牲にして
軍備を
大きくし、ついに
太平洋戦争のような
無謀な
戦いをいどんだ。その
結果は
世界の
平和と
文化を
破壊するのみであつた。しかし
太平洋戦争の
敗戦は
私たちを
正しい
道へ
案内してくれる
機会となつたのである。
新憲法ですべての
軍備を
自らふりすてた
日本は
今後「もう
戦争をしない」と
誓うばかりではたりない。
進んで
芸術や
科学や
平和産業などによつて、
文化国家として
世界の
一等国になるように
努めなければならない。それが
私たち
国民の
持つ
大きな
義務であり、
心からの
希望である。
世界のすべての
国民は
平和を
愛し、
二度と
戦争の
起らぬことを
望んでいる。
私たちは
世界にさきがけて「
戦争をしない」という
大きな
理想をかかげ、これを
忠実に
実行するとともに「
戦争のない
世界」をつくり
上げるために、あらゆる
努力を
捧げよう。これこそ
新日本の
理想であり、
私たちの
誓いでなければならない。
◇ 人はみんな平等だ
人はだれでもみんな
生れながらに「
人としての
尊さ」をもつている。この
尊さをおかされないことが
人として
最も
大切な
権利であろう。
新憲法は
何よりさきに、まずこの
権利を
与えてくれる。(
第十一条)
そして
私たちの
生命や
自由を
守り、
幸福な
生活ができるように、
政治の
上でもいろいろと
考えてくれるように
約束されている。
新憲法はこの
考えをもととして
十分な
自由と
権利とを
与えてくれたのである。(
第十三条)
軍閥が
政治を
行つた
時代には「
国家のために」とか「
国民全体のために」とかいう
名目によつて、
私たちは、
一部の
政治権力を
握る
人人のために、
働かされたり、
権利をふみにじられたこともしばしばあつた。これからは
私たちは
自分の
権利を
守ることができるというばかりでなく、
国の
政治は
国民みんなの
自由と
幸福を
何よりも
大切に
考えて
行われることになつた。
またすべての
国民は
法律上は
全く
平等であつて、あの
人は
家柄がいいから
私たちよりえらいとか、
女は
男より
卑しいものだとか、そんな
差別は
一切ゆるされないこととなつた。
華族制度も
廃止されて
国民はみな
平等の
時代となつたのである。(
第十四条)
◇ 義務と責任が大切
私たちは
新憲法によつて、ずいぶん
多くの
自由や
権利を
与えられたが、
一生懸命努力して、これを
大切に
守つてゆく
義務がある。
自由といつても
他人の
迷惑も
考えずに
勝手気ままにふるまうことではない。
権利だからといつて
無暗やたらにこれをふり
廻してはならない。
私たちは
自分の
自由や
権利を、いつでもできるだけ
多くの
人人のしあわせに
役立つように
使うことが
大切である。(
第十二条)
もしも
各人がこの
心がけを
持たないで、
民主主義をはき
違え
自分勝手なことばかりしていたなら
世の
中は
今までよりも
一そう
住みにくいものになつてしまうだろう。
私たちは
権利や
自由が
常に
義務と
責任とを
伴うことを
忘れてはならない。
◇ 自由のよろこび
「
自由」とはいつたい
何であろうか。
一口にいえば、
自分の
良心に
従つて
生きることである。
長い
間私たちには、その
自由さえも
制限されていた。
私たちは
何とかしてもつと
自由がほしいと
願つていた。いまその
願いが
果されたのである。
私たちはどんな
考えを
持つてもよい(
第十九条)。
神道でも、キリスト
教でも、
仏教でも、その
他どんな
宗教を
信じてもよい。
政府が
私たちにたいして
特別の
宗教教育を
行い、この
宗教を
信じなければいけないなどといいつけることは
許されなくなつた。(
第二十条)
私たちは、どんな
会合をやつても、どんな
団体をつくつても
自由である。
演説をしたり、
新聞や
雑誌を
出したりすることも
自由になつた。どんな
職業をえらんでもいいし、
学問の
自由もまた
認められた。
これらはいづれも
新憲法が
私たちに
与えてくれた
贈りものである。(
第二十一条―
第二十三条)
◇ 女も男と同権
わが
国では、とかく
女は
男より
一段と
低いものとして
扱われがちであつた。
人としての
尊さは、
女も
男と
何のかわりもない。
これまで
結婚の
場合など、
自分がいやだと
思つても
親の
意見に
従わなければならぬことがあつた。しかし
新憲法では、
結婚は
男女双方の
気持があつた
場合だけに
行われるので、
自分の
心に
合わない
結婚をさせられることのないように
定めてある。
また
夫婦は
同等の
権利を
持ち、
財産のことや
相続のことについても、
今までのように
男だけを
重く
扱い
女を
軽んずるということのないようになつた(
第二十四条)。
戸主や
父親だけが
特別に
一家の
中心となつていたわが
国のむかしからの「
家」の
制度もかわつて、お
互いの
人格を
尊び
男女の
平等を
主眼として
家庭を
営むように
改められた。
このように
男と
女は
全く
平等になり、いままでのような
家族制度にしばられることはなくなつた。そのかわりこれからの
男女は
結婚や
夫婦生活に
対して
全く
自分で
責任をおう
必要がある。
とくに
日本の
女は、いままで
親や
親族のいうままになることに
慣れていたから、この
大切な
判断をする
力にかけたところがある。
新憲法で
高められた
女の
地位を
生かすためには、
日本の
女はさらに
一層その
見識を
深めるように
努力しなければならない。
◇ 健康で明るい生活
世間を
見わたすと
不幸な
人は
沢山ある。
乞食、
浮浪者、ゆき
倒れの
病人など、こういう
気の
毒な
人人が
戦争後はいよいよ
多くなつてきた。
新憲法ではすべての
国民は
健康で
文化的な
最低限度の
生活を
営むことを
認めており、
国は
気の
毒な
人人を
助け、
国民一人残らず
人間らしい
生活のできるように
努めなければならないと
定めてある。(
第二十五条)
また
国民はすべて
働く
権利と
義務があり、
働きたい
人に
職を
与えることも
国の
仕事の
一つとなつた。また
児童に
無理な
働きをさせてはならない。(
第二十七条)
働く
人々が
団結して
組合をつくり、
会社や
工場の
雇主に
対して
働く
時間のことや
賃金のことなどをかけ
合うこともはじめて
認められた
権利である。(
第二十八条)
◇ 役人は公僕である
憲法に
定めがあつたにもかかわらず、
実際には
最近まで
警察や
検事局が
国民を
手続なしに
捕えて
幾日も
留置場へ
入れておいたり、むごい
方法で
取調べを
行い、むりやりに
自白させたりすることも
少くなかつた。
新憲法ではすべてこうした
不法なひどいことを
固く
禁じた。また
罪を
犯した
者も
必ず
速かに
公平な
公開の
裁判を
受けられるようになつた。もし
間違つて
罪人の
扱いを
受けた
場合は
国に
対しての
損害賠償も
求めることが
出来るようになつた。(
第三十一条―
第四十条)
これからは
悪いことをしない
限り、いたずらに
警察や
検事局をこわがる
必要はなくなつた。そればかりかこれからの
役人は
国民の
生活を
守つてくれる
私たちの「
公僕」となつた。
◇ 国会は私たちの代表
わが
国の
政治のしくみは
国会と
内閣と
裁判所の
三つに
分けられている。
国会は
国の
予算をきめたり、
法律をつくつたり、
内閣はこの
法律によつて
政治を
行い、
裁判所はこの
法律を
正しく
解釈してそれを
実行するのである。
従つて
国の
最高の
権力を
握つているものは
国会であつて、これがただ
一つの
立法機関である(
第四十一条)。その
国会議員をえらぶのは、
私たち
国民であるから、
私たちは、とりもなおさず
国の
政治の
一番の
大もとである。
国会は
衆議院と
参議院の
二つから
成りたつている。
衆議院の
組織はこれまでと
大差ないが、
参議院はこれまでの
貴族院が、
皇族、
華族および
一部の
特権階級の
人人からできていたのとちがつて、
衆議院と
同じように、やはり
私たちが
選挙によつて
選んだ
議員で
組織することになつた。(
第四十二条―
第六十四条)
国の
政治に
必要な
費用をどう
使うかということも
国会できめる。
また
新しい
税金をとることや
税金の
種類をかえることも
国会が
法律としてきめなければやれない。(
第八十三条―
第八十六条)
このように
国会議員の
任務は、この
上もなく
重いものであるから
私たちはほんとうに
信頼のできる
立派な
人物をえらばなければならない。そして
国の
政治をになうものは
結局は
国民自身であることを
私たちは
深く
考えなければならないのである。
◇ 総理大臣も私たちが選ぶ
国の
政治の
責任をになうものは
内閣である。その
内閣の
長は
総理大臣である。
総理大臣は
国会議員の
中から
国会が
指名してきめるのである。つまり
総理大臣も
私たちが
選ぶことになるわけだ。(
第六十七条)
その
他の
国務大臣は
総理大臣が
任命し、その
半数以上は
国会議員でなければならない。(
第六十八条)
このようにしてできた
内閣は
国会に
対して
責任をおうのであるが、
一切の
行政は
内閣によつて
行われるものである。
◇ 裁判所は憲法の番人
新憲法では
司法権は
裁判所で
行うものと
定めた。
最高裁判所はこれまでと
違つて
憲法にそむくような
法律は、これを
無効とすることができる。
このように
裁判所の
地位は
新憲法によつて
著しく
高く
重要なものとなつたが、それと
同時に
国民と
国会との
力でこれを
監視することができるようになつた。
例えば
最高裁判所の
裁判官は
内閣が
任命するものであるけれども、これには
私たち
国民がよろしいと
認めることが
必要である。またもしも
裁判官が
不適任であれば、
国会によつてその
裁判官をやめさせることもできる。(
第七十九条)
◇ 知事も私たちが選挙
民主主義の
政治はただ
中央の
政治ばかりでなく、
私たちの
生活にとつて
最も
身近
かな
都道府県や
市町村の
行政から
行われなければならない。
これまでの
憲法では
地方行政のことについては
何の
定めもなかつた。そして
政府が
都道府県の
知事を
任命し、
政府のきめた
中央の
方針を
地方に
押しつけ、
地方の
実際の
状態に
合つた
政治が
行われることは
少かつた。
そこで
新憲法では
都道府県や
市町村の
政治は、その
土地に
住む
人人が
自分たちの
責任で
自分たちの
選んだ
代表者により
行うことにきめられた。
つまり
東京都や
北海道の
長官、
各府県の
知事は、これからは
私たちが
選挙してきめることとなり、
市長村長もまた
私たちが
直接に
選挙するのである。(
第九十二条、
第九十三条)
こうして
地方の
政治も
完全に
私たちの
手で
行われることとなつた。この
地方自治こそ
民主政治のもとである。
◇ 私たちのおさめる日本
このように
新憲法は
新しい
日本の
骨組を
定め、また
私たちや
私たちの
子孫に
対して
大切な
権利を
約束してくれた。この
新憲法はわが
国の
最高の
定めであつて、
他の
法律や
命令などもすべてこの
定めにもとずくものである。
もとより
前にのべたように
国会や
内閣や
裁判所などがあつて、それぞれの
仕事を
分担しているけれども、わが
国の
政治の
一番大もとの
力は
私たち
国民の
手にあるのである。
日本をよい
国にし、
私たちの
生活を
明るくするためには、
何よりも
私たち
国民の
一人一人が、この
憲法を
正しく
守つてゆく
心がけが
大切である。
私たちは
新憲法の
実施を
迎え、
新日本の
誕生を
心から
祝うとともに、この
新憲法をつらぬいている
民主政治と、
国際平和の
輝かしい
精神を
守りぬくために、
全力をつくすことを
誓おうではないか。(
完)
日本国憲法
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
第一章 天皇
第一条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
第二条 皇位は、世襲のものであつて、国家の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣がその責任を負ふ。
第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる。
第五条 皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは、摂政は、天皇の名でその国事に関する行為を行ふ。この場合には、前条第一項の規定を準用する。
第六条 天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。
天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。
第七条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
一 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。
二 国会を召集すること。
三 衆議院を解散すること。
四 国会議員の総選挙の施行を公示すること。
五 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。
六 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。
七 栄典を授与すること。
八 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。
九 外国の大使及び公使を接受すること。
十 儀式を行ふこと。
第八条 皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。
第二章 戦争の放棄
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第三章 国民の権利及び義務
第十条 日本国民たる要件は、法律でこれを定める。
第十一条 国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
第十二条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。
華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。
第十五条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。
第十六条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。
第十七条 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。
第十八条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
第十九条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
第二十三条 学問の自由は、これを保障する。
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
第二十七条 すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。
賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。
児童は、これを酷使してはならない。
第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。
第二十九条 財産権は、これを侵してはならない。
財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
第三十条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第三十九条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
第四十条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。
第四章 国会
第四十一条 国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
第四十二条 国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。
第四十三条 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
両議院の議員の定数は、法律でこれを定める。
第四十四条 両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。
第四十五条 衆議院議員の任期は、四年とする。但し、衆議院解散の場合には、その期間満了前に終了する。
第四十六条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
第四十八条 何人も、同時に両議院の議員たることはできない。
第四十九条 両議院の議員は、法律の定めるところにより、国庫から相当額の歳費を受ける。
第五十条 両議院の議員は、法律の定める場合を除いては、国会の会期中逮捕されず、会期前に逮捕された議員は、その議院の要求があれば、会期中これを釈放しなければならない。
第五十一条 両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。
第五十二条 国会の常会は、毎年一回これを招集する。
第五十三条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
第五十四条 衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。
衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。
前項但書の緊急集会において採られた措置は、臨時のものであつて、次の国会開会の後十日以内に、衆議院の同意がない場合には、その効力を失ふ。
第五十五条 両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。但し、議員の議席を失はせるには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
第五十六条 両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない。
両議院の議事は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第五十七条 両議院の会議は、公開とする。但し、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。
両議院は、各々その会議の記録を保存し、秘密会の記録の中で特に秘密を要すると認められるもの以外は、これを公表し、且つ一般に頒布しなければならない。
出席議員の五分の一以上の要求があれば、各議員の表決は、これを会議録に記載しなければならない。
第五十八条 両議院は、各々その議長その他の役員を選任する。
両議院は、各々その会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定め、又、院内の秩序をみだした議員を懲罰することができる。但し、議員を除名するには、出席議員の三分の二以上の多数による議決を必要とする。
第五十九条 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
第六十条 予算は、さきに衆議院に提出しなければならない。
予算について、参議院で衆議院と異なつた議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は参議院が、衆議院の可決した予算を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて三十日以内に、議決しないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
第六十一条 条約の締結に必要な国会の承認については、前条第二項の規定を準用する。
第六十二条 両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。
第六十三条 内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。
第六十四条 国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院の議員で組織する弾劾裁判所を設ける。
弾劾に関する事項は、法律でこれを定める。
第五章 内閣
第六十五条 行政権は、内閣に属する。
第六十六条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。
第六十七条 内閣総理大臣は、国会議員の中から国会の議決で、これを指名する。この指名は、他のすべての案件に先だつて、これを行ふ。
衆議院と参議院とが異なつた指名の議決をした場合に、法律の定めるところにより、両議院の協議会を開いても意見が一致しないとき、又は衆議院が指名の議決をした後、国会休会中の期間を除いて十日以内に、参議院が、指名の議決をしないときは、衆議院の議決を国会の議決とする。
第六十八条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。
内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。
第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。
第七十条 内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。
第七十一条 前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ。
第七十二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。
第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
第七十四条 法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。
第七十五条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。
第六章 司法
第七十六条 すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。
特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。
すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。
第七十七条 最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について、規則を定める権限を有する。
検察官は、最高裁判所の定める規則に従はなければならない。
最高裁判所は、下級裁判所に関する規則を定める権限を、下級裁判所に委任することができる。
第七十八条 裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行ふことはできない。
第七十九条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。
最高裁判所の裁判官の任命は、その任命後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際国民の審査に付し、その後十年を経過した後初めて行はれる衆議院議員総選挙の際更に審査に付し、その後も同様とする。
前項の場合において、投票者の多数が裁判官の罷免を可とするときは、その裁判官は罷免される。
審査に関する事項は、法律でこれを定める。
最高裁判所の裁判官は、法律の定める年齢に達した時に退官する。
最高裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
第八十条 下級裁判所の裁判官は、最高裁判所の指名した者の名簿によつて、内閣でこれを任命する。その裁判官は、任期を十年とし、再任されることができる。但し、法律の定める年齢に達した時には退官する。
下級裁判所の裁判官は、すべて定期に相当額の報酬を受ける。この報酬は、在任中、これを減額することができない。
第八十一条 最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
第八十二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。
第七章 財政
第八十三条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
第八十四条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
第八十五条 国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。
第八十六条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
第八十七条 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
第八十八条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。
第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
第九十条 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
第九十一条 内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。
第八章 地方自治
第九十二条 地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。
第九十三条 地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。
地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
第九十五条 一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。
第九章 改正
第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
第十章 最高法規
第九十七条 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
第十一章 補則
第百条 この憲法は、公布の日から起算して六箇月を経過した日から、これを施行する。
この憲法を施行するために必要な法律の制定、参議院議員の選挙及び国会召集の手続並びにこの憲法を施行するために必要な準備手続は、前項の期日よりも前に、これを行ふことができる。
第百一条 この憲法施行の際、参議院がまだ成立してゐないときは、その成立するまでの間、衆議院は、国会としての権限を行ふ。
第百二条 この憲法による第一期の参議院議員のうち、その半数の者の任期は、これを三年とする。その議員は、法律の定めるところにより、これを定める。
第百三条 この憲法施行の際現に在職する国務大臣、衆議院議員及び裁判官並びにその他の公務員で、その地位に相応する地位がこの憲法で認められてゐる者は、法律で特別の定をした場合を除いては、この憲法施行のため、当然にはその地位を失ふことはない。但し、この憲法によつて、後任者が選挙又は任命されたときは、当然その地位を失ふ。
昭和二十二年五月三日発行 発行者 憲法普及会