作家 |
作品 |
芥川龍之介 |
【或阿呆の一生】
彼は如何にも卑屈らしい五分刈の男を思ひ出してゐた。
すると黄ばんだ麦の向うに
羅馬カトリツク教の伽藍が一宇、いつの間にか円屋根を現し出した。
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芥川龍之介 |
【南京の基督】
しかしまだその外に何か理由があるとしたら、それは金花が子供の時から、壁の上の十字架 が示す通り、歿くなつた母親に教へられた、羅馬加特力教の信仰をずつと持ち続けてゐるからであつた。
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夏目漱石 |
【虞美人草】
生ける時は、莫耶も我らを割き難きに、死こそ無惨なれ。
羅馬の君は
埃及に葬むられ、埃及なるわれは、君が羅馬に
埋められんとす。君が羅馬は――わが思うほどの恩を、
憂きわれに拒める、君が羅馬は、つれなき君が羅馬なり。
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太宰治 |
【『井伏鱒二選集』後記】
「アフリカに於ける羅馬
軍の大将アッチリウス・レグルスは、カルタゴ人に打ち勝って光栄の真中にあったのに、
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有島武郎 |
【クララの出家】
クララが十六歳の夏であった、フランシスが十二人の伴侶と羅馬に行って、イノセント三世から、基督を模範にして生活する事と、寺院で説教する事との印可を受けて帰ったのは。
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北村透谷 |
【富嶽の詩神を思ふ】
請ふ見よ、羅馬死して羅馬の遺骨を幾千万載に伝へ、死して猶ほ死せざる詩祖ホーマーを。」邦家の事曷んぞ長舌弁士のみ能く知るところならんや、
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松本泰 |
【謎の街】
わたしは上着をガウンに着替えて、羅府の妹や友人たちに手紙を書いたり、夕刊新聞を読んだりしているうちに、待っている青年は来ないで時間は経過してとうとう十二時になってしまった。
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田中英光 |
【オリンポスの果実】
船が桑港に入る前夜、ぼくは日本を発つとき、学校の先生から頼まれた、羅府にいる先生の親戚への贈物、女の着物の始末に困って、副監督のM氏に相談しました。
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夏目漱石 |
【虞美人草】
「日本が短命だと云うのかね」と宗近君は詰め寄せた。
「日本と
露西亜の戦争じゃない。人種と人種の戦争だよ」
「無論さ」
「
亜米利加を見ろ、
印度を見ろ、
亜弗利加を見ろ」
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芥川龍之介 |
【MENSURA ZOILI】
「外国から輸入される書物や絵を、一々これにかけて見て、無価値な物は、絶対に輸入を禁止するためです。この頃では、日本、
英吉利
、
独逸
、
墺太利
、
仏蘭西
、
露西亜
、
伊太利
、
西班牙
、
亜米利加
、
瑞典
、
諾威
などから来る作品が、皆、一度はかけられるそうですが、どうも日本の物は、あまり成績がよくないようですよ。
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石川啄木 |
【詩】
ああ偉いなる敗将、軍神の選びに入れる露西亜の孤英雄、 無情の風はまことに君が身にまこと無情の翼をひろげき、と。
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岡本かの子
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【異国食餌抄】
よその街でするやうに、
飛行機と露西亜バレエの調子で
彼等と一所に踊らねばならない、
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夢野久作 |
【暗黒公使(ダーク・ミニスター)】
同時に人種的分裂と、物質の欠乏に悩む欧洲の地図の色が
百色眼鏡のように変化し初め、
露西亜と
独逸が赤くなり、又青くなり、
伊太利に黒シャツ党が頭を上げ、
西比利亜に白軍王国が出来かかり、満洲では緑林王(馬賊王)張作霖が奉天に拠って北方経営の根を拡げ、日本では日英同盟のお代りとなるべく締結された日仏協約が、更に一歩を進めて、英の
新嘉坡と、米の
比律賓に於ける海軍根拠地を同時に脅かすべく、仏領
印度に関する秘密協商となって進行し初めていた。……と云えば、いい加減若い人達でも、その当時の眼まぐるしかった新聞記事の大活字を思い出すであろう。
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与謝野晶子 |
【何故の出兵か】
内政のためでなくて、今日のように国際のために設けられた軍備は、露西亜のレニン一派の政府のように極端な
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与謝野晶子 |
【何故の出兵か】
露国は露人自身が衛るべきものだと思います。露人に全く、自衛の力がないとは思われません。それに果して独逸の勢力が東漸するか、露国の反過激派が日本に信頼するかも疑問です。
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二葉亭四迷 |
【予が半生の懺悔】
それはこうだ――何でも 露国との間に、かの樺太千島交換事件という奴が起って、だいぶ世間がやかましくなってから後、
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太宰治 |
【葉桜と魔笛】
東郷提督の命令一下で、 露国のバルチック艦隊を一挙に撃滅なさるための、大激戦の最中だったのでございます。ちょうど、そのころでございますものね。
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森鷗外 |
【舞姫】
一月ばかり過ぎて、或る日伯は突然われに向ひて、「余は明旦、魯西亜に向ひて出発すべし。
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夏目漱石 |
【倫敦消息】
トルストイ」は先日魯西亜の国教を蔑視すると云うので破門されたのである。
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山花袋 |
【重右衛門の最後】
五六人集つたある席上で、何ういふ拍子か、ふと、魯西亜の小説家イ、エス、ツルゲネーフの作品に話が移つて、ルウヂンの末路や、バザロフの性格などに、いろ/\興味の多い批評が出た事があつたが、
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小栗虫太郎 |
【紅毛傾城】
それはともすると、打ち合う歯の音に、消されがちだったけれど、紛れもない魯西亜言葉だった。
*編注:魯西亜(オロシャ)はロシアのこと
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内田魯庵 |
【灰燼十万巻(丸善炎上の記)】
現行書目にしも、英独仏露伊西以外、和蘭、瑞西、波蘭、瑞典、那威、 澳太利、匈牙利、葡萄牙、墨西哥、アルゼンチン、将た印度、波斯、中央亜細亜あたりまでの各国書目を一と通り揃えていた。
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夏目漱石 |
【倫敦塔】
二年の留学中ただ一度倫敦塔を見物した事がある。その後再び行こうと思った日もあるがやめにした。人から誘われた事もあるが断った。
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太宰治 |
【女の決闘】
或晩夜廻りが倫敦の町を廻って居ると、テンプルバアに近い所で、若い娘が途に倒れているのを見付けた。
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与謝野晶子 |
【鏡心灯語 抄】
私はピカデリイやグラン・ブルヴァルの繁華な大通で、倫敦人や巴里人の車馬と群衆とが少しの喧囂も少しの衝突もせずに軽快な行進を続けて行くのを見て驚かずにいられなかった。
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林芙美子 |
【朝御飯】
倫敦で二ヶ月ばかり下宿住いをしたことがあるけれど、二ヶ月のあいだじゅう朝御飯が同じ献立だったのにはびっくりしてしまった。
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谷譲次 |
【踊る地平線 テムズに聴く】
傘とレイン・コウトの倫敦に名物の薄明が覆いかぶさる。夜に入って一そうの雨だ。
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芥川龍之介 |
【開化の殺人】
予は唯、竜動に在るの日、予が所謂薔薇色の未来の中に、来る可き予等の結婚生活を夢想し、以て僅に悶々の情を排せしを語れば足る。
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