夏の七草

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 夏の七草

 なつのななくさ

夏の七草とはなんでしょうか?

  • 夏の七草は、春の七草や秋の七草ような古事に基づくものは見られず、近年植物学者などが独自に選定したものが発表されている。ここでは、それらのいくつかを見てみる。
  • 原文において歴史的仮名遣いで表記されている部分は現代仮名遣いにし、また、一部、現在一般的に呼び習わされている名称に変更した。
  • 原文を欄外に示し、変更した場合は可能な範囲において注釈を加えた。
  • 名称はカタカナ表記を基本とし、適宜、漢字を補った。
  • 出典表記のうち、「国立国会図書館/図書館送信限定」は国立国会図書館の承認を受けた図書館の館内で利用できるサービスを利用。「国立国会図書館」は「国立国会図書館デジタルコレクション」を利用。出版社を表記しているものは原本から引用した。
《 夏の七草 》
『夏の七艸考』楓園 鈴木重瑊 著(明治37年〈1904年〉)
(国立国会図書館/図書館送信限定)
名称
備考
ナデシコ 撫子
瞿麦
常夏
オモダカ 沢瀉
面高
野茨菰
ユウガオ 夕顔
遍蒲
ヒルガオ 昼顔
旋花
ハチス
ユリ 百合
アザミ 小薊
《原文》
床夏 瞿麦、おもたか 野茨菰、夕かほ 遍蒲、ひるかほ 旋花、はちす 蓮、ゆり 百合、あさみ 小薊
  • 原文での「床夏」は「常夏」のこと。樋口一葉が「ねぶりけりたが床夏の花ぞとも知らでや蝶の我ものにして」と使っている。
  • 「野茨菰」は「オモダカ」の漢名。
  • 「はちす・ハチス」は、「ハス」の日本での古名。
  • 原文での「あさみ」は「小薊」と表記され、「小薊」は「ノアザミ」の別称・古名とされることから、ここでの「アザミ」は「ノアザミ」を指すか。
  • 始めは「つき草」を入れたが、後に「あざみ」を入れ「つき草」は省いたとしている。「つき草」は「ツユクサ(露草)」のことで、ツユクサは古くは「つきくさ/月草」と呼ばれた。ツユクサは「鴨跖草」の字があてられることもあり、筆者は「つき草 鴨跖草」と記している。
  • 筆者は、「夏の七草」を選定したいきさについて『春秋のは古く世に云うところだが、冬は思いもよらなかった。それを、伊藤篤太郎博士が考え選んだ   。よって自分は、一時のすさびに夏の七草を集めてみた。あやまちも多くあるかも知れないので、後の日加除すべし』などとしている。(「夏の七艸考」明治37年〈1904年〉1月18日)
  • 伊藤も、鈴木重瑊が著した「夏の七艸考」の識語しきごで「冬の七草」と「夏の七草」について書いている。( 伊藤篤太郎博士が選んだ『冬の七草』   
《 夏の七草を選定するの議 》
懸葵かけあおい 8巻6号』 つくも生 著(明治44年〈1911年〉)
(国立国会図書館/図書館送信限定)
名称
備考
スイレン 睡蓮
ミズアオイ 水葵
雨久花
ガマ
香蒲
ヒシ
タヌキモ 狸藻
ヒンジモ 品字藻
ミズアサガオ 水朝顔
《原文》
睡蓮、水葵(雨久花)、蒲、菱、狸藻、品字藻、ミズアサガホ
  • 「ミズアサガオ (水朝顔)」は「ミズオオバコ(水大葉子)」の別称。
  • この「夏の七草」は、俳誌『懸葵』の中の「雑俎」と題するコラムの中で発表されたものであるが、筆者はこの中で「夏の七草」を選定したいきさつを述べている。以下、その要約。
  •  京都岡崎の商品陳列所では、二年も続いて九月に入ると新七草の募集が行われ、(略)帰するところ、到底万葉の昔を凌駕するようなのはなく、(略)かくの如くして余は、新七草は数年継続して募集して見たって、格別な成功を収められまいと断念して仕舞った。そして同じく試みるならば寧ろ他の季節に向かった方が得策ではなかろうかと思った。(略)春には若菜の七種があり、冬には明治になってから 伊藤篤太郎博士の選定になるもの   があるしするから、余すところはただ夏季があるのみだ。夏の七草これこそは吾人の鑑賞眼をはたらかし見るべき、前人未踏の花園たるべきものと言わねばならぬ。(以下、七種の説明など)
《 新撰 夏の七草 》
 観賞植物大図鑑 8月巻』安達潮花 著(大正10年〈1921年〉)
(国立国会図書館)
名称
備考
サワギキョウ 沢桔梗
ヒツジグサ 未草
ホシクサ 星草
ミソハギ 禊萩
ミズアオイ 水葵
サンショウモ 山椒藻
デンジソウ 田字草
《原文》
サハギキヤウ、ヒツジグサ、ホシクサ、ミソハギ、ミヅアフヒ、サンセウモ、デンジサウ
《 勧修寺経雄かじゅうじつねお 撰による短歌 》
勧修寺経雄(1882年〈明治15年〉4月13日 - 1936年〈昭和11年〉11月1日)。日本の教育者、政治家、華族。貴族院伯爵議員。
名称
備考
ヨシ
オモダカ 沢瀉
面高
ヒツジグサ 未草
ハチス
コウホネ 河骨
川骨
サギソウ 鷺草
《原文》
涼しさは よし ゐ おもだか ひつじぐさ はちす かわほね さぎさうの花
(涼しさは、蘆、藺、沢潟、未草、蓮、河骨、鷺草の花)
  • 「ヨシ」は、「アシ(葦、芦、蘆、葭)」とも。
  • 「イ」は、「イグサ(藺草)」のこと。
  • 「ハチス」は、「ハス」の日本での古名。
  • この七種は、後述の『労働レーダー』2巻8号(昭和53年〈1978年〉8月)にも紹介されている。
《 新選「夏の七草」 》
『週報・447/8合併号』 内閣情報局(昭和20年〈1945年〉6月20日)
 日本学術振興会学術部・野生植物活用研究小委員会選定
(国立国会図書館/図書館送信限定)
名称
備考
アカザ
イノコズチ 猪子槌
ヒユ
スベリヒユ 滑莧
シロツメクサ 白詰草
ヒメジョオン 姫女菀

ツユクサ

露草
《原文》
アカザ、ヰノコズチ、ヒユ、スベリヒユ、シロツメクサ、ヒメジヨヲン、ツユクサ
  • 原文での「ヒユ」は、「ハゲイトウ(葉鶏頭)」を指すか。
  • この『週報』が発行されたのは、日本が「ポツダム宣言   」を受け入れ(注:受諾は昭和20年〈1945年〉8月14日)、第二次世界大戦での敗戦が決まる直前の同年6月で、紹介された七種は全て「食用」とされている。
  • (略)日本学術振興会の野生植物活用研究委員会では、本誌二月十四日号で冬から春にかけての野菜不足の時期に際し、十種類の野草を選定してその食用を一般にお薦めしましたが、こゝに夏を迎へるに当り、更に今度は、全国的に何処にでもある極めて普通な夏の野草で、しかも量の多い種類七つを選び、これを春の七草や秋の七草の例に傚ひ、あらたに「夏の七草」といふ名をつけて、一般にその食用をお薦めすることに致しました。(中略)食生活がいよ/\窮屈になつてゐる現在、この野草の利用にも大いに工夫、努力をすることが大事です。(略)
    《参考》
  • この『週報』の発行元は、『第2次世界大戦中、情報収集、宣伝のためおかれた内閣直属の国家機関で、言論、思想統制の中枢(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)』とされる内閣情報局で、「夏の七草」を紹介した号にも世相を反映して『とことんまで戦い抜く意志は烈々としている』『 はらを決めて敵をやっつけるあるのみだ』などの文言が並ぶ。
  • 週報巻頭の『週言』を読む
    週言
     焼跡にトタン板で壕舎を建てる。それからまはりの土地を整理して土を耕し、農園をつくる。衣食住はすべて焼け残つた僅かの物で間に合はせる。今までの文化生活は一舉にして消滅し、原始生活に戻る。これが戰災都市における市民の生活である。
     一見して相當惨めなこの生活も、住む人の心の持ち方で豐かにも美しくもなり強靱な戰闘力はこゝから生まれてくる。 そして物質文化は燒かれても魂の文化を燒かれぬ都會人は、此處にあつて事實豐かに美しく、而して強く生きてゐる。こゝに住む人々は先づ裸である。素裸な心持をもつてゐるが故に執着がない。從つてとことんまで戰ひ抜く意志は烈々としてゐる。この住居には塀やかこ ひがない。お互に戰火をくゞつた人たちが彼方此方に小屋をつくり、溫い心で互に助けつ励勵ましつ暮し、物資を分け合ひ面倒を見合つて、へだてのない兄弟となつてゐる。ここにもまた一段の強みがある。最も強いことは、最惡の事態になり下つたことである。これ以上惡くなりつこはない身分だから、こんなに強いものはない。 はら を決めて敵をやつつけるあるのみだ。
     かつて都會の知識層は農村人に比べると戰意は低いなどと言はれたが、かうなると焼けた都會の人々は恐ろしいほど強い戰意と戰闘力とをもつてゐる。今や農村人は自らを省みて都會人に学ぶべきのときである。
《 夏の七草 》
『植物図絵』本田正次 著(昭和23年〈1948年〉)
(国立国会図書館/図書館送信限定)
名称
備考
ヒユ
アカザ
シロツメクサ 白詰草
ヒメジョオン 姫女菀
スベリヒユ 滑莧
イノコズチ 猪子槌
ツユクサ 露草
《原文》
ヒユ、アカザ、シロツメクサ、ヒメジョオン、スベリヒユ、イノコズチ、ツユクサ
  • 原文での「ヒユ」は、「ハゲイトウ(葉鶏頭)」を指すか。
  • 筆者は、「夏の七草」を選定したいきさつなどを次のように述べている。
  •  春の七草や秋の七草はむかしからあるが、夏の七草はあまりふつうの人に知られていない。私はほかの学者たちとそうだんして、食べられる野草を主にして「夏の七草」をきめ、広く人人に発表した。(略)5,6月ころから9月ごろまで、日本国じゅうのどこの道ばたにも畑にも野原にもはえている雑草ばかりだから、皆さんもたいてい知っているだろう。出来るだけたくさんとって、春の七草とおなじように、食べてみなさい。(略)
《 夏の七草 》
『学習植物図鑑』理科教育研究委員会編(昭和26年〈1951年〉)
(国立国会図書館/図書館送信限定)
名称
備考
ヒメジョオン 姫女菀
シロツメクサ 白詰草
アオビユ 青莧
スベリヒユ 滑莧
ツユクサ 露草
アカザ
イノコヅチ 猪子槌
《原文》
ヒメジヨオン、シロツメグサ、アオビユ、スベリヒユ、ツユクサ、アカザ、イノコヅチ
  • 原文での「アオビユ」は、「アオゲイトウ(青鶏頭)」の別名。
《 野草園譚/夏の七草 》
『労働レーダー』2巻8号<通巻16号>
(労働問題研究会議 昭和53年〈1978年〉8月 管野邦夫)
(国立国会図書館/図書館送信限定)
《原文》
ヨシ、イ、オモダカ、ヒツジグサ、ハチス、カワホネ、サギソウの花
  • これは、筆者が選んだとする記述はなく、また、出典などの記述もないが、前出の、 勧修寺経雄かじゅうじつねお 撰とされる短歌、『涼しさは よし ゐ おもだか ひつじぐさ はちす かわほね さぎさうの花』を紹介したものと思われる。文中で筆者は次のように述べている。
  •  春の七草、秋の七草はよく知られ、春は食べる七種、秋のは鑑賞の七種が選ばれているが、この夏の七草はなんと涼しさを呼ぶ七種なのである。(略)いずれも水湿地の植物である。水辺に映えて涼味を誘うこの植物をそれぞれに見てみよう。(以下、七種の説明)
《 夏の七草 》
私の植物散歩  』木村陽二郎 著(昭和62年〈1987年〉4月)
(筑摩書房)
名称
備考
マツムシソウ 松虫草
ヤマユリ 山百合
キスゲ 黄菅
ツリフネソウ 釣船草
吊舟草
ツユクサ 露草
クサフジ 草藤
オオマツヨイグサ 大待宵草
《原文》
マツムシソウ、ヤマユリ、キスゲ、ツリフネソウ、ツユクサ、クサフジ、オオマツヨイグサ
  • 「キスゲ」は、「ユウスゲ」の別名。
  • 木村陽二郎は、自著「私の植物散歩   」で、前述の内閣情報局『週報 447/8合併号』(昭和20年〈1945年〉)での「アカザ、イノコズチ、ヒユ、スベリヒユ、シロツメクサ、ヒメジョオン、ツユクサ」を紹介しているが、「先に述べた(注:内閣情報局『週報』の)夏の七草はあまりにも風情がないから、ここに新しく私の好きな夏の七草を考えてみたい」として、上記七種を記した。
  • 木村陽二郎きむらようじろう (1912年7月31日-2006年4月3日)。日本の植物学者・科学史家。東京大学名誉教授。植物分類に業績。
《 夏の七草 》
雑草の呼び名事典  』亀田龍吉 著(平成24年〈2012年〉2月)
(世界文化社)
名称
備考
チガヤ 白茅
ヒルガオ 昼顔
ヤブカンゾウ 藪萱草
ツユクサ 露草
ドクダミ 露草
ミツバ 三葉
ノアザミ 野薊
《原文》
ちがや ひるがお やぶかんぞう つゆくさ どくだみ みつば のあざみ 夏を彩る旬の七草
  • 雑草の呼び名事典   」の著者亀田龍吉は、自著の中で「私のえらんだ好きな夏草7種」として上記をあげている。
  • 亀田龍吉 かめだりゅうきち (1953年〈昭和28年〉-)。日本の自然写真家。
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Last updated : 2022/11/23