古事記に見る年齢の表記
= 年齢の名称・別名 =

 ここでは、「古事記こじき」に見られる年齢の表記を見てみることにする。

「古事記」(こじき、ふることふみ、ふることぶみ)は、一般に現存する日本最古の歴史書であるとされる。その序によれば、和銅5年〈712年〉 に太安万侶が編纂し、元明天皇に献上されたことで成立する。上・中・下の3巻。内容は天地開闢 (日本神話)から推古天皇までの記事を記述する。 8年後の養老4年〈720年〉に編纂された『日本書紀』とともに神代から上古までを記した史書として、国家の聖典としてみられ、近現代においては記紀と総称されることもあるが、『古事記』が出雲神話を重視するなど両書の内容には差異もある。(Wikipedia  
各年齢での古事記からの引用のうち、上段(漢字のみの文章)は原文で、国立国会図書館所蔵の「寛永21年〈1644年〉」版を、下段(ルビを含む文章)は読み下しで、国立国会図書館所蔵の「古事記(校訂:幸田成友) 」、青空文庫の「古事記(校訂:武田祐吉) 」を参考にした。
また、「天皇すめらみこと」「御年みとし」「御陵みはか 」と、この3語については30歳の項目での読み下しにのみルビを付けた。
【参考】読み下しでの年齢の「ぢ」の表記について
「ぢ」は歴史的かな遣いで、現代かな遣いでは「じ」と書かれる。
「ぢ」は数を示す接尾語の「つ」から「ち・ぢ」と転じたもの。のちに、「ぢ」が「路」と解されて「三十路」「四十路」などとも表記されるようになった。殊に、年齢では「路」と書かれることが多い。
【参考】使われている年齢の漢字
壹(一)
貮(二)
參/参(三)
肆(四)
伍(五)
陸(六)
漆(七)
捌(八)
玖(九)
拾(十)
佰(百)
30歳
天皇御年 參拾捌歲 治天下八歲 御陵在片岡之石坏岡上也
天皇すめらみこと御年みとし 三十八歳みそぢまりやつ八歳やとせ天の下治らしめしき。御陵みはかは片岡の 石坏いはつきの岡の上にあり。
〔顯宗天皇〕
40歳
御年 肆拾參歲 丁未年四月九日崩也 御陵者 三嶋之藍御陵也
天皇、御年 四十三歳よそぢまりみつ(丁未の年四月九日崩りたまひき)御陵は三島の藍の陵なり。
〔繼體天皇〕
天皇御年 肆拾伍歲 御陵在衝田岡也
天皇、御年 四十五歳よそぢまりいつつ、御陵は 衝田つきだの岡にあり。
〔綏靖天皇〕
天皇御年 肆拾伍歲 御陵在畝火山之眞名子谷上也
天皇、御年 四十五歳よそぢまりいつつ、御陵は畝火山の 眞名子谷まなごだにの上にあり。
〔懿徳天皇〕
天皇御年 肆拾玖歲 御陵在畝火山之美富登也
天皇、御年 四十九歳よそぢまりここのつ、御陵は畝火山の 美富登みほとにあり。
〔安寧天皇〕
50歳
凡帶中津日子天皇之御年 伍拾貮歲 壬戌年六月十一日崩也 御陵在河內惠賀之長江也
およそこの 帶中津日子たらしなかつひこの天皇の御年 五十二歳いそぢまりふたつ(壬戌の年六月十一日崩りたまひき)御陵は河内の 惠賀ゑが長江ながえにあり。
〔仲哀天皇〕
天皇御年 伍拾陸歲 御陵在菅原之伏見岡也
天皇、御年 五十六歳いそぢまりむつ。御陵は 菅原すがはら伏見ふしみをかにあり。
〔安康天皇〕
此天皇御年 伍拾漆歲 御陵在劒池之中岡上也
この天皇、御年 五十七歳いそぢまりななつ、御陵は つるぎいけなかをかの上にあり。
〔孝元天皇〕
60歳
天皇之御年 陸拾歲 丁丑年七月崩。御陵在毛受野也
天皇の御年 六十歳むそぢ(丁丑の年七月に崩りたまひき)御陵は毛受野もずのにありと言へり。
〔反正天皇〕
天皇御年 陸拾參歲 御陵在伊邪河之坂上也
天皇、御年 六十三歳むそぢまりみつ、御陵は 伊耶河いざかはの坂の上にあり。
〔開化天皇〕
天皇之御年 陸拾肆歲 壬申年正月三日崩 御陵在毛受也
天皇の御年 六十四歳むそぢまりよつ (壬申の年正月三日崩りたまひき)御陵は 毛受もずにあり。
〔履中天皇〕
70歳
天皇御年 漆拾捌歲 甲午年正月十五日崩 御陵在河內之惠賀長枝也
天皇、御年 七十八歳ななそぢまりやつ(甲午の年正月十五日崩りたまひき)御陵は 河内かふち惠賀ゑが長枝ながえ にあり
〔允恭天皇〕
80歳
此天皇御年 捌拾參歲 丁卯年八月十五日崩也 御陵在毛受之耳上原也
この天皇の御年 八十三歳やそぢまりみつ(丁卯の年八月十五日崩りたまひき)御陵は 毛受もず耳原みみはらにあり。
〔仁徳天皇〕
90歳
天皇御年 玖拾參歲 御陵在掖上博多山上也
天皇、御年 九十三歳ここのそぢまりみつ、御陵は掖上わきのかみ博多山はかたのやまにあり。
〔孝昭天皇〕
天皇御年 玖拾伍歲 乙卯年三月十五日崩也 御陵在沙紀之多他那美也
天皇、御年 九十五歳ここのそぢまりいつつ (乙卯の年三月十五日崩りたまひき)御陵は、 沙紀さき多他那美たたなみにあり。
〔成務天皇〕
100歳
天皇御年 壹佰陸歲 御陵在片岡馬坂上也
天皇、御年 一百六歳ももぢまりむつ、御陵は片岡の 馬坂うまさかの上にあり。
〔孝靈天皇〕
天皇御年 壹佰貮拾參歲 御陵在玉手岡上也
天皇、御年 一百二十三歳ももぢまりはたちみつ、御陵は 玉手たまての岡の にあり。
〔孝安天皇〕
天皇御年 壹佰貮拾肆歲 己巳年八月九日崩也 御陵在河內之多治比高鸇也
天皇、御年、 一百二十四歳ももぢまりはたちよつ(己巳の年八月九日崩りたまひき)御陵は 河内かふち多治比たぢひ高鸇たかわしにあり。
〔雄略天皇〕
凡此品陀天皇御年 壹佰參拾歲 甲午年九月九日崩 御陵在川內惠賀之裳伏岡也
およそこの品陀の天皇。御年 一百三十歳ももぢまりみそぢ。甲午の年九月九日に崩りたまひき。御陵は、 川内かふち惠賀ゑが裳伏もふしの岡にあり。
〔應神天皇〕
凡此神倭伊波禮毘古天皇御年 壹佰參拾漆歲 御陵在畝火山之北方白檮尾上也
およそこの神倭伊波禮毘古の天皇、御年 一百三十七歳ももぢまりみそぢまりななつ御陵みはかは畝火山の北の方 白檮かしの尾の上にあり。
〔神武天皇〕
此大帶日子天皇之御年 壹佰參拾漆歲 御陵在山邊之道上也
この 大帶日子おほたらしひこの天皇の御年、 一百三十七歳ももぢまりみそぢななつ、御陵は山の邊の道の上にあり。
〔景行天皇〕
此天皇御年 壹佰伍拾參歲 御陵在菅原之御立野中也
この天皇、御年 一百五十三歳ももぢまりいそぢみつ、御陵は 菅原すがはら御立野みたちのの中にあり。
〔垂仁天皇〕
天皇御歲 壹佰陸拾捌歲 戊寅年十二月崩 御陵在山邊道勾之岡上也
天皇、御歳 一百六十八歳ももぢまりむそぢやつ(戊寅の年の十二月に崩りたまひき)御陵は、 やまみちまがりをかにあり。
〔崇神天皇〕
《ちょっと知識》 「古事記」に書かれた 33人の天皇のうち、没年齢が記されている 23人中 8人が100歳を越えて亡くなったことになっている。
  • 崇神天皇すじんてんのう  :168 歳
  • 垂仁天皇すいにんてんのう:153 歳
  • 神武天皇じんむてんのう  :137 歳
  • 景行天皇けいこうてんのう:137 歳
  • 應神天皇おうじんてんのう  :130 歳
  • 雄略天皇ゆうりゃくてんのう:124 歳
  • 孝安天皇こうあんてんのう  :123 歳
  • 孝靈天皇こうれいてんのう  :106 歳
《ちょっと知識》
研究者による読み下しの例 〈注〉年齢にのみルビ
武田祐吉 訳註「古事記」(1956年・角川文庫)
天皇、御年   三十八歳みそぢまりやつ
天皇、御年  四十五歳よそぢまりいつつ
天皇、御年  五十二歳いそぢまりふたつ
天皇、御年  六十三歳むそぢまりみつ
天皇、御年   七十八歳ななそぢまりやつ
天皇、御年   八十三歳やそぢあまりみつ
天皇、御年  九十三歳ここのそぢまりみつ
天皇、御年  一百二十四歳ももちまりはたちよつ
天皇、御年  一百三十七歳ももちまりみそちまりななつ
倉野憲司 校注「古事記」(1978年・岩波文庫)
天皇、御年   三十八歳みそぢまりやとせ
天皇、御年  四十五歳よそぢまりいつとせ
天皇、御年  五十二歳いそぢまりふたとせ
天皇、御年  六十三歳むそぢまりみとせ
天皇、御年   七十八歳ななそぢまりやとせ
天皇、御年   八十三歳やそぢあまりみとせ
天皇、御年  九十三歳ここのそぢまりみとせ
天皇、御年  一百二十四歳ももあまりはたちまりよとせ
天皇、御年  一百三十七歳ももちまりみそぢまりななとせ
次田真幸 全訳注「古事記 中」(1980年・講談社学術文庫)
天皇、御年  四十五歳よそぢあまりいつとせ
天皇、御年  五十二歳いそとせあまりふたとせ
天皇、御年  六十三歳むそぢあまりみとせ
天皇、御年  九十三歳ここのそぢあまりみとせ
天皇、御年  一百三十七歳ももちまりみそまりななとせ
青木和夫[ほか]校注「日本思想大系1 古事記 」(1982年・岩波書店)
天皇、御年   三十八歳みそとせあまりやとせ
天皇、御年  四十五歳よそとせあまりいつとせ
天皇、御年  五十二歳いそとせあまりふたとせ
天皇、御年  六十三歳むそとせあまりみとせ
天皇、御年   七十八歳ななそとせあまりやとせ
天皇、御年   八十三歳やそとせあまりみとせ
天皇、御年  九十三歳ここのそとせあまりみとせ
天皇、御年  一百二十四歳ももとせあまりはたちあまりよとせ
天皇、御年  一百三十七歳ももとせあまりみとせあまりななとせ
荻原浅男 校注・訳「日本の古典-完訳-1 古事記」(1983年・小学館)
天皇、御年   三十八歳みそぢまりやとせ
天皇、御年  四十五歳よそぢまりいつとせ
天皇、御年  五十二歳いそぢまりふたとせ
天皇、御年  六十三歳むそぢまりみとせ
天皇、御年   七十八歳ななそぢまりやとせ
天皇、御年   八十三歳やそぢまりみとせ
天皇、御年  九十三歳ここのそぢまりみとせ
天皇、御年  一百二十四歳ももちまりはたちよとせ
天皇、御年  一百三十七歳 ももちまりみそななとせ
山口佳紀 校注・訳 神野志隆光 校注・訳「新編日本古典文学全集1 古事記」(1997年・小学館)
天皇、御年   三十八歳みそとせあまりやとせ
天皇、御年  四十五歳よそとせあまりいつとせ
天皇、御年  五十二歳いとせあまりふたとせ
天皇、御年  六十三歳むそとせあまりみとせ
天皇、御年   七十八歳ななそとせあまりやとせ
天皇、御年   八十三歳やそとせああまりみとせ
天皇、御年  九十三歳ここのそとせあまりみとせ
天皇、御年  一百二十四歳ももとせあまりはたとせあまりよとせ
天皇、御年  一百三十七歳ももとせあまりみそとせあまりななとせ
西宮一民 校注「古事記」(2014年・新潮日本古典集成)
天皇、御年   三十八歳みそちあまりやつ
天皇、御年  四十五歳よそちあまりいつつ
天皇、御年  五十二歳いちあまりふたつ
天皇、御年  六十三歳むそちあまりみつ
天皇、御年   七十八歳ななそちあまりやつ
天皇、御年   八十三歳やそちあまりみつ
天皇、御年  九十三歳ここのそちあまりみつ
天皇、御年  一百二十四歳ももちあまりはたちあまりよつ
天皇、御年  一百三十七歳ももちあまりみそちあまりななつ

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Last updated : 2024/06/28