- 俳優や声優、アナウンサー、歌手など、声を使った表現者になろうとする時、ガ・ギ・グ・ゲ・ゴの、ガ行鼻濁音の発音が正しく出来るかどうかは重要な要素とされます。
- 鼻濁音を「カ゜、キ゜、ク゜、ケ゜、コ゜」と表記し、赤く着色しました。
- 文字がスクロールするページがこちらにあります ≫≫
- 鼻濁音漢字混じり・縦書き版がこちらにあります ≫≫
- 鼻濁音ひらがな・縦書き版がこちらにあります ≫≫
-
《ご指摘・ご質問に関して》
- この中に出て来る「胃肝肺肝」は「胃心肺肝」の誤記ではないかとのご指摘をいただきました。
- 当サイトでは、ページ下部の『このページでの表記についての解釈』にも記載しております通り、文化8(1811)年に書かれた『花江都歌舞妓年代記』という文献を原典としており、この文献では「いかん肺肝」と記されています。
- また、参考にした江戸から明治初期に書かれた他の文献も「いかんはいかん」としているため、ここでは、『花江都歌舞妓年代記』を出来るだけ忠実に引用するという趣旨の下に「胃肝肺肝」としているものです。ご理解ください。なお、平仮名で書かれている「いかん」は、「胃肝」ではなく別の意味を持つ言葉であることも考えられるため、原典に忠実であれば漢字にするのは相応しくはないのかも知れません。検討課題とします。 (2016/6/22)
外郎売の台詞
拙者親方と申すは、お立ち合いの内に御存知のお方もござりましょうカ゜、お江戸を発って二十里上方、相州小田原、一色町をお過キ゜なされて、青物町を登りへお出でなさるれば、欄干橋虎屋藤右衛門、只今は剃髪致して、円斎と名乗りまする。元朝より大晦日まで、御手に入れまする此の薬は、昔、ちんの国の唐人、外郎という人、わカ゜朝へ来たり、帝へ参内の折から、此の薬を深く籠め置き、用ゆる時は一粒ずつ、冠の隙間より取り出す。依って其の名を帝より、透頂香と賜る。即ち文字には、頂、透く、香と書きて、とうちんこうと申す。只今は此の薬、殊の外世上に弘まり、方々に似看板を出し、イヤ小田原の、灰俵の、さん俵の、炭俵のと、色々に申せども、平仮名を以てういろうと致したは、親方円斎ばかり。若しやお立合の内に、熱海か塔の沢へ湯治にお出なさるるか、又は伊勢御参宮の折からは、必ず門違いなされまするな。お登りならば右の方、お下りなれば左側、八方カ゜八棟、表カ゜三つ棟玉堂造、破風には菊に桐の薹の御紋を御赦免あって、系図正しき薬で御座る。イヤ最前より家名の自慢ばかり申しても、御存知ない方には、正身の胡椒の丸呑、白川夜船。さらば一粒食べかけて、その気味合をお目に懸けましょう。先ず此の薬を、かように一粒舌の上へ乗せまして、腹内へ納めますると、イヤどうもいえぬは、胃肝肺肝カ゜健やかに成って、薫風咽より来り、口中微涼を生ずるカ゜如し。魚、鳥、木の子、麺類の食い合わせ、其の外、万病速効あること神の如し。扨、此の薬、第一の奇妙には、舌の廻ることカ゜銭独楽カ゜裸足で逃ケ゜る。ひょっと舌カ゜廻り出すと、矢も楯も堪らぬじゃ。そりゃそりゃそりゃ、そりゃそりゃ、廻って来たわ、廻って来るわ。アワヤ咽、サタラナ舌に、カ牙サ歯音。ハマの二つは唇の軽重開口爽やかに、あかさたな、はまやらわ。おこそとの、ほもよろを。一っぺキ゜へキ゜に、へキ゜ほし、はじかみ。盆豆、盆米、盆牛蒡。摘蓼、摘豆、摘山椒。書写山の社僧正。小米の生噛、小米の生噛、こん小米のこ生噛。繻子緋繻子、繻子繻珍。親も嘉兵衛、子も嘉兵衛、親嘉兵衛子嘉兵衛、子嘉兵衛親嘉兵衛。古栗の木の古切口。雨合羽カ゜番合羽か。貴様の脚絆も皮脚絆、我等カ゜脚絆も皮脚絆。尻皮袴のしっ綻びを、三針針長にちょと縫て、縫てちょとぶん出せ。河原撫子野石竹。野良如来野良如来、三野良如来に六野良如来。一寸のお小仏に蹴躓きゃるな。細溝に泥鰌にょろり。京の生鱈、奈良、生学鰹、ちょと四五貫目。お茶立ちょ、茶立ちょ、ちゃっと立ちょ、茶立ちょ。青竹茶筅でお茶ちゃと立ちゃ。来るわ来るわ何カ゜来る、高野の山のおこけら小僧、狸百疋、箸百膳、天目百杯、棒八百本。武具馬具、武具馬具、三武具馬具、合わせて武具馬具六武具馬具。菊栗、菊栗、三菊栗、合わせて菊栗六菊栗。麦ごみ、麦ごみ、三麦ごみ、合わせて麦ごみ六麦ごみ。あの長押の長薙刀は、誰カ゜長薙刀ぞ。向うの胡麻殻は荏の胡麻殻か真胡麻殻か、あれこそ本の真胡麻殻。がらぴいがらぴい風車。おきゃカ゜れ小法師、おきゃカ゜れ小法師。昨夜もこぼして、又こぼした。たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ。たぽたぽ、干蛸落たら煮て食を。煮ても焼いても食われぬ物は、五徳、鉄弓、金熊童子に、石熊、石持、虎熊、虎鱚。中にも東寺の羅生門には、茨木童子カ゜、うで栗五合、掴んでおむしゃる。かの頼光の膝元去らず。鮒、金柑、椎茸、定めて後段な、蕎麦切り、素麺、饂飩か、愚鈍な、こ新発知。小棚のこ下に、小桶にこ味噌カ゜こ有るぞ、こ杓子こ持って、こ掬てこ寄せ。おっと合点だ、心得たんぼの、川崎、神奈川、程ヶ谷、戸塚は走って行けば、灸を擦りむく、三里ばかりか、藤沢、平塚、大磯カ゜しや、小磯の宿を七つ起きして、早天そうそう、相州小田原透頂香。隠れござらぬ、貴賤群衆の花のお江戸の花ういろう。あれ、あの花を見て、お心をお和らキ゜ゃっという。産子、這子に至るまで、此のういろうの御評判、御存知ないとは申されまいまいつぶり、角出せ、棒出せ、ぼうぼう眉に、臼、杵、擂鉢、ばちばち、ぐゎらぐゎらぐゎら(がらがらがら)と、羽目を外して今日御出の何も様に、上ねば成らぬ、売ねば成らぬと、息せい引っぱり、東方世界の薬の元締、薬師如来も上覧あれと、ホホ敬って、ういろうはいらっしゃりませぬか。
- 「菊栗」の部分を濁音とする場合は、「きくク゜り、きくク゜り、みきくク゜り、あわせてきくク゜りむきくク゜り」と「鼻濁音」となります。
- 「金熊童子」「石熊」「虎熊」を濁音とする場合は、それぞれ「かなク゜まどうじ」「いしク゜ま」「とらク゜ま」と「鼻濁音」となります。ただし、「室町物語草子集・酒伝童子絵」(小学館)によれば、「金熊」「石熊」「虎熊」は『大東急記念文庫蔵土佐絵本のよみに従う』として濁音の表記は取られていません。
- 『茨木童子が』の部分の表記に間違いがありました。修正致しました。ご指摘ありがとうございました。(2018/09/27)