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外郎売(ういろううり)
= 原典での旧字旧仮名遣い・縦書き版、及び原典画像 =

歌川豊国『三都名所図会』より「象引・外郎・不動・景清・暫・六部・助六・五郎」(国立国会図書館所蔵)
 
    外    
    郎    
    売    
『外郎家』の店構え - 東海道名所圖會(寛政9年・1797年)より
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うゐらう(うり)のせりふ
二代目市川團十郎
拙者(せつしや)親方(おやかた)と申すは。お(たち)(あひ)(うち)に。御存(ごぞんじ)のお(かた)もござりませうが。お江戸(えど)(たつ)二十里上方(にじうりかみがた)相州(さうしう)小田原(おだわら)(いつ)しき(まち)をおすぎなされて。靑物町(あをものてう)(のぼ)りへお(いで)でなさるれば。欄干橋(らんかんばし)虎屋(とらや)(とう)右衛門。只今(ただいま)剃髪(ていはつ)いたして。圓齋(えんさい)となのりまする。元朝(がんてう)より大晦日(おおつごもり)まで。御手(おて)(いれ)まする(この)(くすり)は。(むかし)ちんの(くに)唐人(たうじん)。うゐらうといふ(ひと)。わが(てう)(きた)(みかど)參内(さんだい)(をり)から。(この)(くすり)(ふか)籠置(こめおき)(もち)ゆる(とき)一粒(いちりう)づゝ。(かふり)のすき()より(とり)(いだ)す。(よつ)(その)()(みかど)より。透頂香(とうちんかう)と給はる。(すなはち)文字(もじ)にはいたゞきすく(にほひ)(かき)てとうちんかうと申す。只今(ただいま)(この)(くすり)(こと)(ほか)世上(せじやう)(ひろま)り。ほう/″\に似看板(にせかんばん)(いだ)し。イヤおだはらの灰俵(はいだはら)のさん(だはら)炭俵(すみだはら)のと。いろ/\に申せども。(ひら)がなをもつてうゐらうと(いたし)たは。親方(おやかた)ゑん(さい)ばかり。もしやお立合(たちあひ)(うち)に。熱海(あたみ)(とう)(さわ)湯治(とうぢ)にお出なさるゝか。又は伊勢御參宮(いせごさんぐう)(おり)からは(かなら)ず。門ちがひいなされまするな御登(おのぼり)ならば右の方。お下なれば左側(ひだりがは)八方か八棟(やつむね)おもてが三ッ(むね)玉堂造(きょくだうづくり)はふには(きく)に桐のたうの御(もん)御赦免(こしゃめん)有て系圖(けいづ)(たゞ)しき(くすり)でござる。イヤ最前(さいぜん)より家名(かめい)のぢまんばかり申ても。御存(ごぞんじ)ない方には。正身(しやうじん)胡椒(こせう)丸呑(まるのみ)。白川夜舩(よふね)。さらば一粒(いちりう)たべかけて。(その)氣味(きみ)合をお()(かけ)けませう(まづ)(この)(くすり)をかやうに一粒舌の上へのせまして。腹内(ふくない)(をさめ)まするとイヤどふもいへぬは。いかん肺肝(はいかん)がすこやかに(なつ)て。薫風(くんぷう)(のんど)より來。口中びりやうを生ずるがごとし魚(とり)木の子麺類(めんるい)(くひ)合せ。其外万病(まんひやう)速効(そつこう)あること神のごとし(さて)(この)(くすり)第一の奇妙(きめう)には(した)のまはる事が(ぜに)ごまがはだして(にげ)る。ひよつと(した)(まは)り出すと。矢も(たて)もたまらぬじや。そりや/\/\/\そりや/\まはつて來たは(まは)つてくるは。あわや(のど)。さたらな舌にかげさしおん。はまの二ツは(くちびる)輕重(きやうじう)かいごふ(さはやか)に。あかさたなはまやらわ。をこそとのほもよろお。一ッぺぎへぎにへぎほし。はじかみ(ほん)まめ(ぼん)米ぼんごぼう。摘蓼(つみたで)つみ(まめ)つみ山桝(ざんしやう)書寫(しよしや)山の社僧正(しやそうぜう)こごめのなま(がみ)小米(こごめ)のなまがみこん小米のこなまかみ。繻子(しゆす)ひじゆす。繻子しゆちん。(おや)()兵衛子も嘉兵衛。(おや)かへい()()へい子()兵衛(おや)かへい。古栗(ふるぐり)の木のふる切口。(あま)がつぱがばん合羽(かつぱ)貴様(きさま)のきやはんも皮脚半(かはぎやはん)(われ)()がきや(はん)(かは)(ぎや)半。しつかわ(ばかま)のしつぽころびを。三(はり)はりなかにちよと(ぬふ)て。ぬふてちよとぶんだせ。かはら撫子(なてしこ)野石竹(のぜきちく)。のら如來(によらい)のら如來(によらい)。三のら如來にむのらによ(らい)一寸のお小佛(こぼとけ)に。おけつまづきやるな細溝(ほそみそ)にとちよによろり。(きやう)のなま(だら)奈良(なら)なま(まな)(がつお)。ちよと四五〆目。おちやたちよ(ちや)たちよ。ちやつとたちよ茶たちよ。靑竹(あをだけ)(ちや)(せん)でお茶ちやとたちや。くるは/\何が()る。高野(かうや)の山のおこけら小僧(こぞう)(たぬき)(ひき)(はし)百ぜん天(もく)百ぱい(ぼう)(はつ)百ぽん武具(ふぐ)()ぶくばく()ぶくばく。合せて武具(ふく)馬具(ばく)六ぶくばく。(きく)(くり)きくくり三きく栗合てむきこみむむきごみ。あのなけしの(なか)なぎなたは(たが)長長(なかなき)刀ぞ(むか)ふのごまがらはゑの胡麻(こま)からか()ごまからか。あれこそほんのま胡麻殻(ごまがら)がらぴい/\風車(かざぐるま)おきやがれこぼし。おきやがれこぼし。ゆんべもこぼして又こほした。たあぷぽゝたあぷぽゝちりから/\つつたつぽ。たぽ/\干だこ(おち)たら()てくを。にても()いても(くは)れぬ物は五(とく)(てつ)きうかな(くま)どうじに(いし)(くま)(もち)(とら)(くま)虎きす中にもとうじの羅生(らせう)門には。(いばら)()童子(どうじ)が。うで(くり)五合つかんでおむしやるかの頼光(らいくわう)のひざ元(さら)ず。(ふな)きんかん椎茸(しいたけ)(さだ)めてごだんなそば切そうめん。うどんかぐどんなこ新發知(しんぼち)(だな)のこ下に小(おけ)にこみそがこ(ある)ぞ。こ杓子(しやくし)こもつて。こすくてこよこせおつとかてんだ心()たんぽの川(さき)。かな川(ほど)がや。とつかははしつて(ゆけ)ばやいとを(すり)むく三()ばかりかふち(さは)平塚(ひらつか)大磯(おおいそ)がしや小磯(こいそ)宿(しゅく)を七ツおきして(そう)天さう/\相州小田原(さうしうおだわら)とうちん(かう)(かく)れござらぬ貴賤群衆(きせんくんじゆ)(はな)のお江戸の(はな)うゐらう。あれあの花を見てお心をおやわらぎやつといふ。產子(うぶこ)(はふ)子に(いた)るまで此うゐらうの御評判(こひやうばん)()ぞんじないとは申されまい/\つぶり(つの)()(ほう)だせぼう/\まゆに。うす(きね)すりばちばち/\ぐわら/\/\と。はめを(はつ)して(こん)日御(いで)の何()(さま)に。(あげ)ねば(なら)(うら)ねば()らぬと。(いき)せい(ひつ)ぱり東方世界(とうほうせかい)(くすり)(もと)〆め藥師(やくし)如來(によらい)上覽(しやうらん)あれと。ホヽ(うやまつ)て。うゐらうはいらつしやりませぬか。

  • このページは、享保3年〈1718年〉に、二代目市川團十郎が演じた「若緑勢曾我(わかみどりいきおいそが) 」という演目の初演とされる『ういろう売のせりふ』を原典としています。
  • 出典:文化8年〈1811年〉刊/天保12年〈1841年〉再版、烏亭焉馬(うてい えんば)著『花江都 歌舞妓年代記(はなのえど かぶきねんだいき)』(国立国会図書館蔵)
  • 旧字旧仮名遣いで、出来るだけ原文に忠実に表示が出来るよう心掛けました。但し、再現出来ない旧字体などがあります。変体仮名は現代の平仮名としました。
  • この当時の文書には句読点は使われず、原典に書かれている「。」は、息継ぎのための区切り点と思われます。ここでは、句点、読点の区別をせずに原典に沿って「。」のみを表記しました。
  • (みかど)より透頂香(とうちんかう)と給はる」と記述した下りは、原典では文字の並びが「頂透香(とうちんかう)」となっていますが、これは「透頂香(とうちんかう)」の誤記ではないかと思われるため変更しました。
  • 「菊栗、むぎごみ」の下りは、菊栗の「六」と、むぎごみの「三」が欠落していると思われますが、ここでは原典のままの表記としました。
  • (たが)長長刀(なかなき)ぞ」の下りは、「(たが)長長刀(なかなきなた)ぞ」であると思われますが、ここでは原典のままの表記としました。



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Last updated : 2024/06/28