君死にたまふことなかれ
= 心に響く日本語 ・心に残る日本語 =
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君死にたまふことなかれ
(旅順の攻囲軍にある弟宗七を歎きて)
與謝野晶子
ああ、弟よ、君を泣く、
君死にたまふことなかれ。
親のなさけは
親は
人を殺せと教へしや、
人を殺して死ねよとて
親の名を継ぐ君なれば、
君死にたまふことなかれ。
旅順の城はほろぶとも、
ほろびずとても、
君は知らじな、あきびとの
君死にたまふことなかれ。
すめらみことは、戦ひに
おほみづからは
死ぬるを人の
おほみこころの深ければ、
もとより
ああ、弟よ、戦ひに
君死にたまふことなかれ。
過ぎにし秋を
おくれたまへる
歎きのなかに、いたましく、
母の
あえかに若き
君忘るるや、思へるや。
この世ひとりの君ならで
ああまた
君死にたまふことなかれ。