4. 文学作品などに登場する「兎」の数え方
- 文学作品では、「兎」はどのように数えられているでしょうか。
- 主に、明治、大正、昭和初期の作家による作品で、兎の数え方が登場する21作品を調べたところ、使われていたのは「匹」「疋」「羽」「頭」「つ」などで、作家の中でも、鳥ではない兎を「一羽」と数える習慣があることが分かりました。
- しかし、意外にも「羽」と数えていたのは3作品のみで、そのうち1作品は由来を書いた物であり、実質的に作品として「羽」と数えたのは2作品でした。
- その他は、「匹・疋」が15作品、「頭」が2作品、「つ」が1作品でした。
- ・「羽」と数えた作品
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【参考】泉鏡花 「女仙前記」:
雪 の筵包 と振分 の、笊 の中 には、実 に一羽 の小兎 が居 て、円 く畏 って侯 。【参考】大下藤次郎 「白峰の麓」: 昼前に若い一人の男が来て、兎を一羽買ってくれという。副食物の単調に閉口しているおりだから早速三十銭で求める。【参考】南方熊楠 「十二支考(2)兎に関する民俗と伝説」: 従来兎を鳥類と見做 し、獣肉を忌む神にも供えまた家内で食うも忌まず、一疋二疋と数えず一羽二羽と呼んだ由、 - ・「匹・疋」と数えた作品
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【参考】中島敦 「山月記」: その時、眼の前を一匹の
兎 が駈け過ぎるのを見た途端に、【参考】宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」: それからの五年は、ブドリにはほんとうに楽しいものでした。赤ひげの主人の家にも何べんもお礼に行きました。
もうよほど年はとっていましたが、やはり非常な元気で、こんどは毛の長いうさぎを千匹以上飼ったり、赤い甘藍 ばかり畑に作ったり、相変わらずの山師はやっていましたが、暮らしはずうっといいようでした。【参考】泉鏡花 「註文帳」: 途端にちりりんと鈴 の音、袖に擦合うばかりの処へ、自転車一輛、またたきする間もあらせず、
「危い、」と声かけてまた一輛、あッと退 ると、耳許 へ再び、ちりちり!
土手の方から颯 と来たが、都合三輛か、それ或 は三羽 か、三疋 か、燕 か、兎か、見分けもつかず、波の揺れるようにたちまち見えなくなった。【参考】与謝野寛、与謝野晶子 「巴里より」:酒場 の別名は「兎の酒場 」と云ふので入口の壁の上に一匹の兎が描かれて居る。【参考】田中貢太郎 「忘恩」: 一匹の灰色の兎が草の中から飛びだして大塚の前を横切って走った。獲物を見つけた大塚は、肩にしていた銃をそそくさとおろして撃とうとしたが、兎は何処へ往ったかもう見えなかった。【参考】田中貢太郎 「狼の怪」: 彼はしかたなしに大きな岩の下へ往って、手にしていた弓を立てかけ、二疋の兎を入れている袋といっしょに矢筒も解いて凭 せかけた。【参考】田中貢太郎 「宇賀長者物語」: 「旦那様、また一疋 兎 がかかりました」と云って、見張の男は鼻高高と云いました。 - ・「頭」と数えた作品
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【参考】芥川龍之介 「かちかち山」: 童話時代のうす明りの中に、一人の老人と一頭の
兎 とは、舌切雀 のかすかな羽音を聞きながら、しずかに老人の妻の死をなげいている。【参考】正岡子規 「病牀六尺」: また某伯爵が自分の猟区へ独逸皇帝を招いて猟をせられた時には、一日の獲物が雉六千二百五十六羽、兎百五十九頭、ラビツト十三頭であったそうな。 - ・「つ」と数えた作品
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【参考】ハンス・クリスチアン・アンデルセン 森鷗外訳 「即興詩人」: 一角に
龕 の如く窪みたる処あり。その天井には半ば皮剥ぎたる兎二つ弔 り下げたり。初め心付かざりしが、その窪みたる処には一人の坐せるあり。 - このように、 文学作品では「匹」「疋」「羽」「頭」「つ」などの数え方が登場し、作家の中でも、鳥ではない兎を「一羽」と数える習慣があることが分かります。
- しかし、調査をした範囲では、前述したように「匹・疋」が圧倒的で、意外にも「羽」は少ないとう結果でした。